スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 すると、急に北斗さんに腰を抱かれた。突然のことに鼓動が跳ね、肩がつり上がる。そんな私たちを見て、会長は声を上げて笑った。

「琴子さん、これからも北斗を頼むよ。北斗、これからも琴子さんを大切にするんだよ」
「もちろんだよ、父さん」

 会長は北斗さんの言葉に満足そうに頷き、私たちの前から去っていく。その後ろ姿が見えなくなり、私は北斗さんに声をかけた。

「北斗さん、私たちもそろそろ出ましょうか」

 だが、私の腰を抱く北斗さんの腕の力が強くなる。不思議に思って見上げると、彼は不敵に微笑んでいた。
 その顔に、鼓動が急加速を始める。

「あ、あの、北斗さん?」
「今日は、もう業務終了時間だよ」

 動揺する私に、北斗さんは悪戯な笑みを浮かべたままそう告げた。

 報道陣がいなくなった後、ここには部屋を清掃するスタッフがいたはずだ。なのに今は、もう誰もいない。先ほどまで報道陣であふれていた空間は今、彼と私、ふたりきりの空間に変わっていた。
 唐突な甘い空気に、私は思考が追いつかない。

 いったい、どういうこと……?

 トクトクと速まる鼓動のまま彼を見つめていると、北斗さんが口角を引き上げ言った。

「この部屋、今夜は俺が予約しているんだ」

 にこっと甘いマスクで微笑まれ、鼓動が一気に跳ね上がる。

「半年先までキャンセル待ちのヴィラ。最初の宿泊客は、俺と琴子だよ」

 彼がそう言った時、不意にヴィラの玄関ベルが鳴った。
 固まる私に、北斗さんはくすりと笑って玄関へ。戻ってきた彼は後方にベルスタッフを従えていて、しかもスタッフの手には私の手荷物が握られている。

「あ、あの、それ……」

 彼が手にしていたのは、私が今日持ってきた荷物だけでない。箱根の冬は雪で電車が止まることもあるからと北斗さんに言われ、ホテルに常備しておいた簡易のお泊りセットもある。

「俺がどうして琴子に宿泊できる準備を常備しておいてと言ったのか、これでわかっただろう?」

 北斗さんはどうやら、最初から今日の宿泊を準備していたらしい。
 私はその場に立ち尽くしたまま、てきぱきと荷物を運びこむベルスタッフを見守る。彼は終始笑顔で、最後に「ごゆっくりとお過ごしください」と完璧な挨拶をして出ていった。

「さあ、正真正銘のふたりきり。おいで、琴子」

 北斗さんが私に両手を広げて見せる。だけど、私は素直にそこに飛び込むことができなかった。

 戸惑い半分、恥ずかしさ半分。きょろきょろと視線をさまよわせていると、北斗さんがふっと笑いをこぼす。

「すみません、なんだか落ち着かなくて。あ、ソファの位置が少しずれている気がしません? 私、直してきます」

 そう言って歩きだそうとした私の腕を、北斗さんはあっけなく掴んだ。そのまま引き寄せられ、気がついた時には、私は彼の腕の中にすっぽりと収まっていた。

「今日の業務はもう終了だと、先ほど告げただろう」

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