スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 耳元で告げられた甘い囁きに、くらくらしてしまう。想いを伝え合っているとはいえ、こんなに近くで触れ合うのは初めてだ。

「北斗さん、あの」

 そこまで言ったものの、彼の細められた瞳にじっと見つめられて、なぜか喉が締まってしまう。やたらと速い鼓動の音だけが、全身に響いている。

「琴子」

 きっと真っ赤になっているだろう私の顔を見て、北斗さんがそっと告げた。

「今日を無事に迎えられたら、伝えようと思っていた」

 彼はそこで、やたらと熱のこもったため息をこぼす。私は彼の顔を見つめたまま、ごくりと喉を鳴らした。

「愛しているよ。これから先もずっと、琴子とともに歩んでいきたい。だから、ずっと俺のそばにいてくれ」

 初めて彼の口から告げられた愛の言葉に、胸がきゅうっと苦しくなる。だけどそれは不思議と心地よさも孕んでいる。
 どうしてだろう、北斗さんの顔をずっと見ていたいのに、視界がぼやけていく。

 すると、なにかが私の右頬に優しく触れた。柔らかな体温で、それが彼の左手だと思い知る。
 彼はそのまま指の腹で、丁寧に私の目尻を拭ってくれる。視界が徐々に晴れてゆくと、愛おしそうにこちらを見つめる北斗さんと再び目が合った。

「北斗さん、私も――」

 出した声は震えていた。だけど、私も伝えたい。今、感じている、この気持ちを。
 だから私は意を決し、彼を見つめたまま口を開く。

「私も、北斗さんを愛しています」

 するとその瞬間、北斗さんの左手が後頭部に回った。と思ったら、唇に彼のキスが降ってくる。
 北斗さんはそのまま、私の唇を貪るように口づけた。ついばむようなキスはやがて深くなり、北斗さんの舌が私の唇を割って口内に侵入してくる。

 後頭部を押さえられ、私は逃げられない。だけど、そんなものがなくても、私は逃げない。逃げたくなどない。
 そっと彼の舌に自分の舌を絡めると、北斗さんはそれに応えるかのようにさらに私の口内を深くまさぐりはじめた。

 そうして、どのくらいが経っただろう。
 彼の唇がそっと離され、私の体から力が抜けてしまう。すると、北斗さんは私の背を支える右手にそっと力を込めてくれた。

「すまない。琴子の言葉に、つい浮かれてしまった」

 苦笑いのような笑みをこぼす北斗さんに、愛おしさが募る。私は好きですの気持ちを込めて、彼の頬に軽くキスを落とした。

「私も、嬉しかったですから」

 だが、言いながら恥ずかしくなる。うろたえつい俯くと、北斗さんは優しい吐息をひとつこぼした。

「参ったな……」

 北斗さんの弱気な声色は珍しい。ちらっと顔を上げると、北斗さんは窓外の夕日に照らされて、ほんのりと頬を朱に染めていた。
 だが、北斗さんはすぐに私に気づいてこちらに優しく微笑む。そのまま、ちゅっと音を立てて私のおでこに口づける。

「今はまだ夕暮れ時。もう少し、ヴィラでの滞在を楽しみたいと思ったのだが――」
「賛成です!」

 彼の言葉にその先の展開を予想してしまい、前のめりに答えた。
 すると、北斗さんはくすくすと笑う。

「了解。暗くなる前に、少し散歩に出てみようか」

 彼は私に、右手を差し出した。

「はい」

 なんだか恋人みたいだと思いながら、彼の右手に左手をのせる。するとあっという間に繋ぎ直され、指と指が絡み合う形になる。

「夫婦だけど、恋人らしくてもいいだろう?」

 再びの彼の甘いマスクに、私はドキドキしながらこくりと頷いた。

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