スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
私たちは宿泊棟を出て、歩いて芦ノ湖近くまでやってきた。ヴィラの敷地内だが、ここからの景色も十分に美しい。
まだ冬の気配の残る芦ノ湖の水面に、茜色から薄紫、深い群青色へと変わる空の光が反射して、ゆらゆらと揺れている。視線を上に動かすと、箱根の外輪山が幾重にも連なり、夕暮れのシルエットとなってくっきり浮かんでいるのが見える。
「きっと、夏の緑の生い茂る時期や秋の紅葉の季節も綺麗なんでしょうけれど、この季節は独特の美しさがありますね」
いつも仕事で見ていたはずの景色なのに、北斗さんと手を繋いでいるというだけで違うものに見える。それはなんだか、不思議な心地だ。
「あ、オリオン座」
西の空、山際に沈みかけていたそれを見つけて、私は指差した。
冬の間は夜空の目立つ位置にあったのに、もうあんなに低い位置にある。冬の終わりを告げるように傾いたその星影に、北斗さんと過ごした時間の移ろいを改めて感じる。
初めて彼とオリオン座を見上げた時は、こんなふうに彼と手を繋いで見る日が来るとは思いもしなかった。
懐かしさにその三つ星をじっと見ていると、不意に北斗さんが口を開いた。
「美しい景色も、空に輝く星座も。もしかしたら〝なにを見るか〟よりも〝誰と見るか〟のほうが重要なのかもしれないな」
北斗さんの言葉に、はっと彼を振り向く。
彼はいつもの微笑を浮かべて、景色を眺めている。けれど、繋いでいた手を握る力が、少しだけ強くなった気がした。
ヴィラを一周し、宿泊棟に戻ってきた。すると、部屋の中に誰かがいる気配がする。
最初こそ不審に思ったものの、脳裏にふと過去のことが蘇った。北斗さんを見上げると、彼はにこにこしたままドアノブに手をかける。
これは、もしかして――。
「北斗さん、またですか?」
「ああ、〝また〟用意させてもらったよ」
北斗さんはあの日のように余裕の笑みを浮かべて言う。彼はどこまで、用意周到なのだろう。
部屋に入ると、思った通りギャルソン姿のスタッフに出迎えられた。そのままスタッフに連れられ、私たちは手を繋いだままダイニングへ。
「どうぞ、お姫様」
いつかと同じような彼のセリフにくすぐったさを感じながら、私はダイニングチェアに腰かける。北斗さんが向かいに座ると、すぐに食前酒が運ばれてきた。小さなグラスに入り、しゅわしゅわと泡の弾けるこれは、スパークリングの梅酒だ。
和と洋をかけ合わせた、箱根らしい創作イタリアン。ヴィラ専属のシェフが料理を始める音を聞きながら、私たちは軽くグラスを掲げて乾杯をした。
高級ヴィラらしい素朴ながらも一流の料理を堪能した私たちは、食後のワインを傾けながら談笑していた。
料理人やギャルソンは手早く片づけをしてヴィラを去っていったから、今はもうふたりきりだ。
互いの好きなこと、今まで見てきたもの。互いにバーで飲む、温かいカクテルが好きだということも新たに知る。
「北斗さんもバーに通われるんですね。ちょっと意外です」
「そう? 俺だって、なんとなく飲みたくなる日もあるよ」
北斗さんはワイングラスを傾けながら、ふっと軽く苦笑いをこぼした。
まだ冬の気配の残る芦ノ湖の水面に、茜色から薄紫、深い群青色へと変わる空の光が反射して、ゆらゆらと揺れている。視線を上に動かすと、箱根の外輪山が幾重にも連なり、夕暮れのシルエットとなってくっきり浮かんでいるのが見える。
「きっと、夏の緑の生い茂る時期や秋の紅葉の季節も綺麗なんでしょうけれど、この季節は独特の美しさがありますね」
いつも仕事で見ていたはずの景色なのに、北斗さんと手を繋いでいるというだけで違うものに見える。それはなんだか、不思議な心地だ。
「あ、オリオン座」
西の空、山際に沈みかけていたそれを見つけて、私は指差した。
冬の間は夜空の目立つ位置にあったのに、もうあんなに低い位置にある。冬の終わりを告げるように傾いたその星影に、北斗さんと過ごした時間の移ろいを改めて感じる。
初めて彼とオリオン座を見上げた時は、こんなふうに彼と手を繋いで見る日が来るとは思いもしなかった。
懐かしさにその三つ星をじっと見ていると、不意に北斗さんが口を開いた。
「美しい景色も、空に輝く星座も。もしかしたら〝なにを見るか〟よりも〝誰と見るか〟のほうが重要なのかもしれないな」
北斗さんの言葉に、はっと彼を振り向く。
彼はいつもの微笑を浮かべて、景色を眺めている。けれど、繋いでいた手を握る力が、少しだけ強くなった気がした。
ヴィラを一周し、宿泊棟に戻ってきた。すると、部屋の中に誰かがいる気配がする。
最初こそ不審に思ったものの、脳裏にふと過去のことが蘇った。北斗さんを見上げると、彼はにこにこしたままドアノブに手をかける。
これは、もしかして――。
「北斗さん、またですか?」
「ああ、〝また〟用意させてもらったよ」
北斗さんはあの日のように余裕の笑みを浮かべて言う。彼はどこまで、用意周到なのだろう。
部屋に入ると、思った通りギャルソン姿のスタッフに出迎えられた。そのままスタッフに連れられ、私たちは手を繋いだままダイニングへ。
「どうぞ、お姫様」
いつかと同じような彼のセリフにくすぐったさを感じながら、私はダイニングチェアに腰かける。北斗さんが向かいに座ると、すぐに食前酒が運ばれてきた。小さなグラスに入り、しゅわしゅわと泡の弾けるこれは、スパークリングの梅酒だ。
和と洋をかけ合わせた、箱根らしい創作イタリアン。ヴィラ専属のシェフが料理を始める音を聞きながら、私たちは軽くグラスを掲げて乾杯をした。
高級ヴィラらしい素朴ながらも一流の料理を堪能した私たちは、食後のワインを傾けながら談笑していた。
料理人やギャルソンは手早く片づけをしてヴィラを去っていったから、今はもうふたりきりだ。
互いの好きなこと、今まで見てきたもの。互いにバーで飲む、温かいカクテルが好きだということも新たに知る。
「北斗さんもバーに通われるんですね。ちょっと意外です」
「そう? 俺だって、なんとなく飲みたくなる日もあるよ」
北斗さんはワイングラスを傾けながら、ふっと軽く苦笑いをこぼした。