見積もりには書けないもの
第十二話『またね』
『美味しそう……』
思わず口に出していた。
それを聞き取った森下さんが、すかさず言った。
『お口に合うかわからないですよ』
少し照れたように笑ってから、
『でも、ありがとうございます。最近はずっと一人で食べてたから……一緒に食べてもらえるだけで嬉しいの』
そう言ってくれた。
さっきまで俺の頭の中にあったモヤモヤも、どこかへ消えていた。
今は、このパスタを気持ちよくいただこう。
その決意表明のように、普段より少し大きな声で、
『いただきます!』
と言っていた気がする。
パスタもサラダも、とても美味しかった。
そして、楽しい時間が過ぎていった。
食事をしながら、いろんな話をした。
考えて話すことなんて、一つもなかった。
知りたい。
聞きたい。
伝えたい。
その感情だけが言葉を発し、耳を傾けていた。
森下さんは、俺より三つ年上だった。
見た目は同世代か、むしろ少し下くらいだと思っていた。
レザークラフトにもかなり興味を示してくれた。
その話をしているうちに、なんだか俺自身もまた、レザークラフトへの気持ちが再燃しそうな予感がした。
息子さんの名前の由来。
旦那さんとの出会い。
今までのこと。
本当にいろんな話をしてくれた。
食後には、森下さんが温かいコーヒーを淹れてくれた。
それを飲みながらも、お互いの話は止まらなかった。
多分、二人ともこの時間を、少しでも長く続けたいと思っていたんだと思う。
やがて、どちらからともなくリフォームの話に戻っていった。
……途中、何度か脱線しながら。
それでも話は一通りまとまり、ふと時計に目が入った。
午後二時前。
楽しい時間って、本当にあっという間だな。
そう感じていた。
実は、午後三時から別の打ち合わせが入っていた。
だから、引き際は潔く俺が決めた。
……いや。
潔くはなかった。
俺が俺自身に言い聞かせた、という方が正しい。
『森下さん、今日はありがとうございました。それに、ご馳走様でした』
挨拶を済ませ、次の約束をした。
『次回は、見積もりお持ちしますね』
森下さんは、深々と何度も丁寧に頭を下げて、お礼を言ってくれた。
帰り際、車まで見送ってくれた森下さんに、窓を開けてもう一度お礼を言いながら車を動かした。
車庫から出る俺に、森下さんがお辞儀をする。
そして、そっと二回、手を振ってくれた。
サイドミラー越しに映る森下さんの口元が、
「またね」
と動いた。
俺はすぐに、朝買って飲んでいた、すっかりぬるくなったコーヒーを一口含んだ。
そして、電子タバコを口にした。
『あー……これ、恋だな』
思わず呟いた。
電子タバコの煙を吐き出しながら、バックミラーを見つめる。
そこには、もう森下さんの姿は見えなかった。
俺は自分に言った。
『昔ならな』
その後、ラジオを消した。
無音になった車内で、電子タバコを咥えながら、次の現場へ向かった。
思わず口に出していた。
それを聞き取った森下さんが、すかさず言った。
『お口に合うかわからないですよ』
少し照れたように笑ってから、
『でも、ありがとうございます。最近はずっと一人で食べてたから……一緒に食べてもらえるだけで嬉しいの』
そう言ってくれた。
さっきまで俺の頭の中にあったモヤモヤも、どこかへ消えていた。
今は、このパスタを気持ちよくいただこう。
その決意表明のように、普段より少し大きな声で、
『いただきます!』
と言っていた気がする。
パスタもサラダも、とても美味しかった。
そして、楽しい時間が過ぎていった。
食事をしながら、いろんな話をした。
考えて話すことなんて、一つもなかった。
知りたい。
聞きたい。
伝えたい。
その感情だけが言葉を発し、耳を傾けていた。
森下さんは、俺より三つ年上だった。
見た目は同世代か、むしろ少し下くらいだと思っていた。
レザークラフトにもかなり興味を示してくれた。
その話をしているうちに、なんだか俺自身もまた、レザークラフトへの気持ちが再燃しそうな予感がした。
息子さんの名前の由来。
旦那さんとの出会い。
今までのこと。
本当にいろんな話をしてくれた。
食後には、森下さんが温かいコーヒーを淹れてくれた。
それを飲みながらも、お互いの話は止まらなかった。
多分、二人ともこの時間を、少しでも長く続けたいと思っていたんだと思う。
やがて、どちらからともなくリフォームの話に戻っていった。
……途中、何度か脱線しながら。
それでも話は一通りまとまり、ふと時計に目が入った。
午後二時前。
楽しい時間って、本当にあっという間だな。
そう感じていた。
実は、午後三時から別の打ち合わせが入っていた。
だから、引き際は潔く俺が決めた。
……いや。
潔くはなかった。
俺が俺自身に言い聞かせた、という方が正しい。
『森下さん、今日はありがとうございました。それに、ご馳走様でした』
挨拶を済ませ、次の約束をした。
『次回は、見積もりお持ちしますね』
森下さんは、深々と何度も丁寧に頭を下げて、お礼を言ってくれた。
帰り際、車まで見送ってくれた森下さんに、窓を開けてもう一度お礼を言いながら車を動かした。
車庫から出る俺に、森下さんがお辞儀をする。
そして、そっと二回、手を振ってくれた。
サイドミラー越しに映る森下さんの口元が、
「またね」
と動いた。
俺はすぐに、朝買って飲んでいた、すっかりぬるくなったコーヒーを一口含んだ。
そして、電子タバコを口にした。
『あー……これ、恋だな』
思わず呟いた。
電子タバコの煙を吐き出しながら、バックミラーを見つめる。
そこには、もう森下さんの姿は見えなかった。
俺は自分に言った。
『昔ならな』
その後、ラジオを消した。
無音になった車内で、電子タバコを咥えながら、次の現場へ向かった。