見積もりには書けないもの

第二十六話 『夏の音と、工事初日』

工事当日を迎えた。

蝉たちが夏を伝える合唱が、あちこちから聞こえてくる。

まだ午前九時だというのに、空はすでに
「夏って、これです」
と言わんばかりの、お手本のような快晴だった。

「夏ですね……」

そう一言だけ交わして、大工さんと二人、インターホンの前に立つ。

ピンポーン。

インターホン越しに、いつもの森下さんの声が響いてきた。

心なしか、明るい。

「はーい」

ドアが開く。

あの日の笑顔で迎えてくれた。

「今日から宜しくお願い致します」

大工さんの前だからか、仕事感をしっかり出して挨拶をした。

羊革のスリッパが迎えてくれる、この玄関をくぐる。

今日は、今まで以上に清々しく感じた。

リビングへと案内され、二人はダイニングへ導かれた。

そこには、木製のコースターが二つ並んでいる。

「暑いでしょ。
アイスコーヒーでも飲んでから始めてください」

森下さんの優しい気遣いに甘え、二人は椅子に腰を下ろした。

カラン。

早速、リズムを奏でる氷。

前向きなこの空気感を見抜いたのか……

相変わらず、空気の読めるアイスコーヒーだ。

軽い雑談を交わし、工事の流れを説明する。

そして、アイスコーヒーを飲み干した。

「さぁ、やりますか!」

大工さんと車に戻り、道具を取りに行く。

まずは養生だ。

俺は軽快に養生を進めた。

廊下を挟んだ和室に養生マットを敷き、リビングの荷物の仮置き場として使わせてもらう。

準備は整った。

まずは、床の重ね貼り。

大工の大山さんとは、もう何年一緒にやっているだろう。

俺は大工仕事を、大山さんに教わってきた。

丁寧で、ユーモアのある、素敵な先輩だ。

大山さんが床を進めている間に、俺は幅木を外し、クロスを剥がし始めた。

いつもの仕事。

いつもの道具。

いつもの一日。

……のはずだった。

けれど、この日は少しだけ違っていた。

1日目。

順調な滑り出しだ。
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