見積もりには書けないもの
第二十九話 『左手』
自動ドアをくぐり、真っ直ぐレジに向かう。
森下さんは、どこか勝手が分かっていない様子だった。
「わたし、初めて来たの」
小声で俺に呟いてきた。
「あー、確かに……」
腑に落ちる。
俺は現場作業が主体でやってきたから、ほか弁とは友達くらいフランクに付き合ってきた。
いわば、当たり前の存在だ。
でも森下さんは初めてだったんだ。
確かに……
そうだよな。
なんとなく、そんな感じがする。
そう思いながら、
「何がいい?」
と思わず聞いてしまっていた。
すかさず、
「何がおすすめ?」
と俺を見上げて見つめてくる。
待って……
ちょっと近いよ。
焦る俺を無視するように、同じ場所から続ける。
「同じのがいい」
「じゃー、チキン南蛮ね」
動揺してませんよ、という雰囲気を絞り出すように全身に塗りたくって答えた。
「チキン南蛮がおすすめ?」
また子猫が見上げる。
「明太のり弁かチキン南蛮しか食ったことない」
反抗期の高校生ばりにレジを見つめながら返した。
完全に……
いや、普通にダサい俺がいた。
大工さんのこと。
仕事のこと。
シートに座って待っている間、森下さんは俺に質問をぶつけ続けた。
俺は感じていた。
俺がブレーキをかけていることに気付き、同じように一生懸命ブレーキをかけようとしている森下さんを。
会計を済ませ、帰路につく。
何を話したのか。
何を聞かれたのか。
はっきりと思い出せないまま、公園の駐車場に着いた。
降りようとする俺に、森下さんが言った。
「ここで食べたいな……」
「この距離で、この感じで食事するの初めてじゃん」
「いつもお弁当は車で食べるの?」
「うん」
それしか言えない俺がいた。
「じゃー今日は、ここで二人で食べよ」
「うん」
そう言うと、俺は森下さんの膝の上で待機しているお弁当を受け取った。
左手が触れた。
一瞬だった。
俺はその左手を握りしめながら、
右手でお弁当を受け取っていた。
森下さんは、どこか勝手が分かっていない様子だった。
「わたし、初めて来たの」
小声で俺に呟いてきた。
「あー、確かに……」
腑に落ちる。
俺は現場作業が主体でやってきたから、ほか弁とは友達くらいフランクに付き合ってきた。
いわば、当たり前の存在だ。
でも森下さんは初めてだったんだ。
確かに……
そうだよな。
なんとなく、そんな感じがする。
そう思いながら、
「何がいい?」
と思わず聞いてしまっていた。
すかさず、
「何がおすすめ?」
と俺を見上げて見つめてくる。
待って……
ちょっと近いよ。
焦る俺を無視するように、同じ場所から続ける。
「同じのがいい」
「じゃー、チキン南蛮ね」
動揺してませんよ、という雰囲気を絞り出すように全身に塗りたくって答えた。
「チキン南蛮がおすすめ?」
また子猫が見上げる。
「明太のり弁かチキン南蛮しか食ったことない」
反抗期の高校生ばりにレジを見つめながら返した。
完全に……
いや、普通にダサい俺がいた。
大工さんのこと。
仕事のこと。
シートに座って待っている間、森下さんは俺に質問をぶつけ続けた。
俺は感じていた。
俺がブレーキをかけていることに気付き、同じように一生懸命ブレーキをかけようとしている森下さんを。
会計を済ませ、帰路につく。
何を話したのか。
何を聞かれたのか。
はっきりと思い出せないまま、公園の駐車場に着いた。
降りようとする俺に、森下さんが言った。
「ここで食べたいな……」
「この距離で、この感じで食事するの初めてじゃん」
「いつもお弁当は車で食べるの?」
「うん」
それしか言えない俺がいた。
「じゃー今日は、ここで二人で食べよ」
「うん」
そう言うと、俺は森下さんの膝の上で待機しているお弁当を受け取った。
左手が触れた。
一瞬だった。
俺はその左手を握りしめながら、
右手でお弁当を受け取っていた。