見積もりには書けないもの

第三十一話 『死角』

翌日の午前八時三十分。

公園の駐車場には、大山さんが先に到着していた。

「もう少しでワタルも来ますよ」

応援のワタル君は、イケメンで、今どき珍しいくらいしっかりした子だ。

三十半ばの独身。

「二人なら安心だ……」

そう言うと、大山さんが言った。

「原澤さん、森下さんめっちゃタイプだわ」

「素敵な女性ですよね」

そこから、旦那さんはいるのか、何をしている人なのか……

質問攻めにあっていた。

そこへワタルが来た。

ちょうどいい救い船だった。

仕事は間違いなかった。

淡々と、そして確実に進めてくれた。

お昼はワタルもいたことから、俺が一人でほか弁に行った。

「明太のり弁、三つ」

三人で森下さん宅で食べるつもりだったが、大山さんも弁当を持参して参加した。

四人でリビングのブルーシートに座り、お昼を食べた。

森下さんは、

「わたしも仲間に入れた感じがして嬉しいわ」

と合わせてくれたので、いつもの職人の昼下がりを過ごせた。

ただ、大山さんは森下さんに興味津々で、相変わらず質問攻めだった。

森下さんは嫌な顔を一切せず、冗談を交えながら上手く切り返していた。

大山さんやワタルの職人あるある。

現場とは……

そんなうんちくも嫌な顔をせず聞いてくれていた。

出来た人だな……

素直に認めざるを得ないくらい、圧倒的に場を収めていた。

三時の一服になる頃。

それは、ちょうど間仕切りが完成し終わる頃だった。

合わせるように森下さんが、

「そろそろ一服ですよね」

と言いながら、冷蔵庫からパウンドケーキとアイスコーヒーを用意してくれた。

多分、前日の流れを見て察して用意してくれたんだと思った。

間仕切り壁に気付いた森下さんは、何度もキッチンに立った。

今までの景色との違いに、大いに感動してくれていた。

「原澤さん……」

「ありがとう」

「想像以上かも……」

ウルウルし始めた森下さんを見て、

抱きしめてあげたい。

そう強く思った。

抱きしめてあげたい……

いや。

抱きしめたい。

悶々とする頭を振り払うように、仕事人として答えた。

「ありがとうございます」

「わたしも感じましたよ」

「この壁には意味がある」

「その意味が伝わってきますね……」

気が付けば、二人でキッチンから壁を眺めていた。

森下さんは、

「うん……うん……」

と何度も頷いている。

その左手を、俺はそっと握りしめていた。

リビングのブルーシートにいる二人からは、死角になっているキッチンで……
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