天使とケサランパサランの靴屋
 エレーナは棚の上の『片翼の天使の置物』に視線を移すと、静かに言葉を重ねました。

「あの天使様のように……片方の翼が折れてしまっても、あなたが繋ぎ止めてくれたから、私はずっと幸せだったわ」

 そして、夫の瞳をまっすぐに見つめます。

「だから今度は……ナターシャの未来を、あなたの手で繋ぎ止めてあげて」

 コーリャは片腕で幼い娘を強く抱きしめ、もう片方の手で妻の冷たくなりゆく手を優しく握りしめると、愛おしそうに自身の頬へとあてがいました。

 エレーナはゆっくりと静かに瞳を閉じながら、聞こえないほどかすかな声で、最後の言葉を託します。

「お願いしますね……」

 そして、最後にそっと添えられた――『ケサランパサラン』という、声なき口の動き。

 その口元を目にしたそばかすの天使は、はっと思い出すように目を見開きました。

(また、あの時と同じように……やはり彼女にも、私の姿が見えていたのだろうか)

 辛い現実を突きつけることになってしまった申し訳なさと、溢れる謝罪の思いを抱えながら、天使は静かな問いを胸に刻むのでした。

 泣き疲れた幼い娘と、堪えきれず涙をこぼし続ける父親。

 絶望に打ちひしがれる二人の背中に、天使も胸を痛めながら、(もう、これ以上は……)とそっと手を添えました。

 次の瞬間、すべてを白く塗りつぶすほどの強烈な光が二人を包み込み、コーリャは思わず強く瞼を閉じます。
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