天使とケサランパサランの靴屋
 それは、かすれて消え入りそうなほど儚く、けれどあまりにも優しく力強い、彼女の『初めての声』でした。

「私が……私が、あなたたちのケサランパサランになるから……!」

 初めて耳にする少女の生きた声。そして、あまりにも懐かしく、彼自身の魂に刻まれた言葉。

 コーリャは雷に打たれたように目を見開き、オルゴールへと伸ばしかけていた手を、ピタリと止めました。

 世界が静止したかのような沈黙の中。

 天使の命がけの叫びと、コーリャの心の震えに深く呼応するように、オルゴールは優しく息を吹き返します。

「ポッ……ロン……ポロン……」

 それは息も絶え絶えな、ほんの数秒きりの、愛おしく弱々しい調べでした。

 あまりにも短く、どこか切なげに響いたメロディー。

 しかし、その掠れた音色は、コーリャの胸の奥底へずっしりと重みのあるメッセージを届けていました。

 コーリャは、まるで壊れやすい宝物を扱うように、そのオルゴールを分厚い両手でそっと包み込みました。

 震える手で引き寄せ、愛おしそうに頬を寄せると、彼はオルゴールの内に秘められた想いをすべて受け止めたように、静かに語りかけます。

「そうか……そうか。完全に壊れてしまったわけでは、なかったんだね。君はまだ、こうして動き出そうとしているんだ……」

 その言葉は、目の前のオルゴールだけでなく、諦めかけていた自分自身に向けられた誓いのようでもありました。

 自分もまだ、完全に壊れてなどいない。まだ、もう一度だけ動き出せるはずだ、と。

 唯一、温かな光が挿し込む最後の扉の前で、二人は身体を寄せ合ったまま、静かに立ち尽くすのでした。
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