天使とケサランパサランの靴屋
 まばゆい光の扉をくぐり抜けた瞬間、コーリャの意識は静かに現実へと引き戻されていきました。

 ふと気がつくと、そこはいつもの見慣れた、古びた靴工房の椅子の上でした。
 さっきまで足を優しく包んでいた光の靴はなく、そこには履き古したいつもの革靴があるだけ。

 あたりを見回しても、あのそばかすの天使の姿はどこにも見当たりません。

「……夢、だったのか」

 コーリャは小さく呟き、自分の分厚く皺の刻まれた両手を見つめました。

 けれど、その胸の奥には、オルゴールが奏でたあの数秒の調べと、不格好な靴に込められた温かなぬくもりが、消えることのない残り火のように確かに灯っていました。

 彼は飾り棚の上に置かれた、あの古いオルゴールをじっと見つめ、深く思いを巡らせます。

 ――完全に壊れてしまったわけじゃない。わしの人生も、まだ動き出せるはずだ、と。

 かつて亡き妻エレーナと交わした「家族を守る」という約束。

 それは悲しみに囚われてこの場所に閉じこもることではなく、これからの家族の未来を「前を向いて見守り続ける」ことなのだと、今のコーリャにははっきりと分かったのでした。

 さらに彼の脳裏に、かつてエレーナが愛おしそうに語ってくれた、大切な言葉がよみがえります。

『あのオルゴールの天使様みたいにね。私の片方の翼が折れてしまっても、あなたがその手で繋ぎ止めてくれたから……私はずっと、幸せだったのよ』

 妻の優しい声を思い出し、コーリャの口元に自然と温かな微笑みが浮かびました。
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