今日も悪魔に恋してる 〜塩対応な先輩は、絶対に好きと囁かない~
1話 悪魔は情報システム部にいる
「うわぁぁぁ!!」
まただ。
悲鳴にも似た声と騒がしい足音に、思わず入力していた手が止まる。
視線を向けると、男性社員が頭を抱えて自分のデスクに駆け戻ってきた。
静かだったフロアが一気にざわめく。
「終わった……」
「情シスの悪魔か、ツイてなかったな」
「御愁傷様ー」
珍しく大声で話しているので、否応なしに耳に入ってくる。
(出た——まだ見ぬ"情シスの悪魔"!!)
入社して三ヶ月。
"情シスの悪魔"の噂だけは、嫌というほど耳にしていた。
とはいえ、情報システム部には、まだ一度もお世話になったことがない。
(仕事に厳しくてダメ出しするとか?……まさかめちゃくちゃ怒鳴られるとか?!)
(……できれば関わりあいたくないなぁ)
それでも気になって、噂話に耳を傾けてみる。
「あいつに目ぇつけられたら、終わるよな」
「でも、顔だけは良い」
「あれは反則。そりゃ女子も虜になるわ」
「いや、でも、俺見たけど、女子社員にも塩対応だったぞ……」
するとそこへ、別の女性社員の声が混ざる。
「塩対応でも、あのビジュなら許せる!」
(えぇっ?!顔が良くても、そんな彼氏はお断りなんだけどっ)
(……まぁ、好きな人すらいたことないけど)
すると、隣からトントンと指で机を叩く音。
気付くと、先輩で教育係でもある山根さんが苦笑いで見ている。
「小鳥遊さん、手、止まってるよ」
「……すみませんっ!」
「焦らなくていいから。正確にね」
「はいっ」
途中だった伝票に目を向ける。
甘いものを飲みたい誘惑にかられつつ、陽の光は容赦なく伝票を照らしている。
(はぁ……まだお預けよね、愛しのアイスココア……)
(というか、助けてもらったのに、悪魔って決めつけるのは違う気がする……)
入力していた指先が、思考と一緒に迷っていく。
その様子を見ていた山根さんが、静かに問いかけた。
「……小鳥遊さんも、噂が気になる?」
「怖いですけど……会ってもない人を、噂だけで悪魔って決めつけるのも違う気がして……」
「なるほど。そう思うんだ」
「え?」
「さ、仕事、仕事」
山根さんの言葉に背を押され、あたしは再び画面に向き直った。