今日も悪魔に恋してる 〜塩対応な先輩は、絶対に好きと囁かない~
そっと扉を開けると、薄暗い部屋の中に、黒い箱みたいなものがいくつも並んでいる。
所々でチカチカと点滅している青や緑の光が、目印のように見えていた。  
効きすぎる空調の冷たい風が、出迎えるように体を撫でる。     

「失礼します……」

ゆっくり台車を運び入れたあと、佐久間主任を探す。
物音がする奥を覗いてみると、汗だくになりながら、一人ラックを動かしていた。
床に置いてあるコードや機材を、そのラックに戻していく。
ラベルはすべて同じ向き。
配線も色ごとに、しかも一本一本きれいに束ねられていて、機械のことは分からないあたしでも、使いやすそうだと分かる。

「……すごい」

思わず漏れ出た声に、佐久間主任の肩がピクリと動く。
 
「何?」
「おっ……お疲れさまです。注文した備品の確認をお願いします」
「ん」

佐久間主任が、黒色のTシャツの袖口で流れる汗を拭う。
少し肌寒いはずなのに、なぜか熱にあてられたように見てしまう。

「どこにある?」
「……入り口に。あたし取って——」
「そこ寒いから、端に行っとけ」
「はい」 

佐久間主任が指差した場所へ行こうと、一歩踏み出す。
すれ違いざま、あの香りとともに小さな声が降ってきた。
 
「足元、コードあるから気ぃ付けや」 

(まただ)
(この人、優しい時は本当に優しい)

しばらくして、確認を終えた佐久間主任が戻ってきた。
前髪を無造作にかき上げる。
初めて見た額と、真っ直ぐな漆黒の瞳。
不意に目が合った。
その黒い瞳に映っていたのは、驚いた顔をしたあたしだった。
 
(……あ)
 
心臓だけが、少し遅れて鼓動を思い出す。
 
「受け取った」
「ありがとうございます」
「お疲れ」
「えっ……」

もう視線も体も、作業に戻っていてこちらを見ていない。
  
初めて返ってきた、たった三文字。 
それだけなのに。

「お疲れさまです」 

足元に絡まったコードみたいに、佐久間主任という人は、見れば見るほど分からなくなる。
 
(悪魔って、もっと分かりやすい例えだと思ってた……)
 
体は冷えたはずなのに、心だけはほんの少しぽかぽかした。 
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