誰でもいい、にはなれなかった

第4部 思っていたより、楽しかった

翌日。

待ち合わせ場所に着くまでの間も、私は何度かスマホを確認していた。

「……ほんとに会うんだ」

昨日の自分が押した「いいね」から始まった。

何度も迷って。

何度も画面を閉じて。

それでも最後には、

「明日大丈夫です!」

と送った。

そして今日。

本当に来てしまった。



待ち合わせ場所には、すでに相手がいた。

写真で見ていたから、すぐに分かった。

軽く挨拶をして。

少しだけ緊張しながら歩き始める。

「どこ行きたいですか?」

「え?」

「昨日、行きたいところあったら言ってくださいって言ったじゃないですか」

そういえば。

メッセージでそんな話をしていた。

私は少し考えて。

前から気になっていた場所をいくつか挙げた。

すると。

「じゃあ、そこ行きましょう」

あっさり決まった。



最初に向かった場所では。

思っていたより普通に楽しめた。

写真を撮ったり。

気になったものを見たり。

くだらないことを話したり。

相手も意外と話しやすかった。

変に距離を詰めてくるわけでもない。

こちらが嫌がることを無理に勧めることもない。

「これ好きそう」

と、私が少し気になっていたものを覚えていてくれたりもした。

「あ、分かってるじゃん」

思わず笑う。



そのあと。

「次どこ行きます?」

と聞かれて。

私はまた、行ってみたかった場所を口にした。

「そこも行きましょう」

また。

あっさり。

「……いいんですか?」

「せっかくなので」

そう言われて。

少しだけ嬉しくなった。



気づけば。

予定していたより長く一緒にいた。

最初は、

「明日の暇を潰せればいい」

くらいに思っていたのに。

いつの間にか。

「次はどこ行こう」

と考えている。



途中でご飯を食べた。

私が気になっていた店を選ぶ。

「ここ、前から来てみたかったんですよ」

「じゃあ、ちょうどよかったですね」

そう言って笑う。

食事をしながら。

好きなものの話をしたり。

最近あったことを話したり。

たまにくだらないことで笑ったり。

思っていたより。

ずっと普通だった。



帰り道。

「今日、楽しかったです」

私は素直にそう言った。

相手も、

「僕もです」

と笑った。

その瞬間。

胸の奥にあった警戒心が。

少しだけほどけた気がした。



駅まで歩く。

夕方の街は、人が増えていた。

「なんか、思ってたより一日長かったですね」

「そうですね」

スマホを見る。

もうこんな時間。

「……ほんとだ」

朝に会ったのが。

ずっと前のことみたいだった。



私は少しだけ考えた。

昨日まで。

この人と会うことにあんなに葛藤していたのに。

実際に会ってみれば。

普通に楽しかった。

行きたいところにも連れて行ってもらえた。

ご飯も美味しかった。

話もできた。

だから。

もしかしたら。

私は単純に。

最初に会うことを怖がりすぎていただけなのかもしれない。

そんなふうに思った。



駅に着く。

「じゃあ、今日はこの辺で」

「はい」

一度、別れようとする。

そのとき。

「あ」

相手が何か思い出したように声を出した。

「そういえば……」

「?」

相手が少しだけ言葉を濁す。

そして。

私を見る。

「もしよかったらなんですけど――」

そこから先を。

一瞬だけ迷うようにして。

何かを提案してきた。



私は。

「……え?」

と聞き返した。

相手はもう一度。

同じことを言おうとする。

でも。

その内容を聞いた瞬間。

さっきまで楽しかった一日の空気が。

ほんの少しだけ。

変わった気がした。

私はすぐには答えられなかった。

ただ。

相手の言葉を頭の中でもう一度繰り返した。
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