もうブチギレましたので、家出します!〜なぜか私に迫ってきた妖艶な美女は、変人引きこもりの婚約者(♂)でした!?〜
尋ねようとした、その時、ぐ〜っと私のお腹が鳴る。
そういえば、夕食を食べずに飛び出してきたので、お腹がペコペコだった。
(は、恥ずかしいですわ……)
私はお腹を押さえて、俯く。
「ふふっ。じゃあ、まずは夕食に行きましょう? お近づきの印に、私が食事を奢ってあげるわ」
「え!? いいえ! 助けていただいたのに、そんなことまで、申し訳ありませんわっ」
私は手を振って断るが、お姉さんは私の手首を掴む。
「ほらほら、行くわよ。オススメのお店があるのよ〜」
そう言って、私を引っ張って歩き出した。
到着したのは、庶民の酒場のようなお店だった。大勢の人で賑わっている。
このようなお店に入ったのは初めてだ。
奥に進むと、カウンター越しにいた顎髭を生やした店主らしき人が、こちらに気付く。
「あぁ、ルイ嬢いらっしゃい。今夜は連れがいるのか?」
(ルイ嬢……? お姉さんの名前?)
「そうよ。マスター、奥空いてる?」
「空いてるよ、使うかい?」
マスターはそう言って、親指で奥を指差す。
お姉さんはこのお店の常連のようで、マスターとも親しげだった。
「えぇ、ありがとう。じゃ、行きましょう」
私は奥に進むお姉さんの後をついて行く。
奥は個室になっていて、壁際に付けたテーブルに、椅子が二脚横並びに置いてあった。
お姉さんは座ると、隣の椅子をぽんぽんと叩く。
「さぁ、どうぞ、座って」
私は言われた通り、隣に腰掛ける。
「ここの料理は絶品なのよ。何か食べたいものある?」
「え? 私は分からないですし、何でも大丈夫ですわ」
「そう? じゃあ、私のオススメでいいかしら? お酒は飲める?」
「はい、少しですが」
「ふふっ、りょ〜かい」
そう言ってお姉さんはウインクすると、店員にオーダーする。
(う、……なんだろう、この妙な色気は。同性なのに、ちょっとドキッとしましたわ……)
しばらくすると、煮込み料理に、ソーセージなど、色々な料理が運ばれてくる。スパイスのような香りが食欲をそそる。
大きなグラスに入った黄色の液体の上には、白い泡が浮かんでいた。
「じゃあ、グラス持って。乾杯しよっか?」
「は、はい……」
お姉さんに促され、私はグラスを持つ。
「この素敵な出会いに、乾杯!」
「乾杯……」
カチンッ。ぎごちなくグラスをぶつける。
お姉さんがグラスに口を付けたのを確認してから、私もおもむろに口を付ける。エールを飲むのは初めてだった。
喉に泡がねっとりと絡みつくような、感覚。
(うぐ!? に、にが……っ)
私がグラスを置くと、お姉さんがこちらを見て吹き出した。
「ふふっ、ほら、お髭になってるわよ? かわい〜」
そう言って、長い指で私の唇の上をそっと撫でた。
私の顔が、かっと熱くなる。
「へ!? す、すみません! ふ、拭きますわっ」
私は慌ててハンカチを取り出して、口の周りを拭った。
(いちいち、色気を振りまくの、やめてください〜)
「じゃあ、食べましょう?」
「は、はい、いただきます……」
私たちは食事を始めるのだった。
ダンッ!
私はグラスをテーブルに打ちつけるように、置いた。
「でっ、何にもしないんでふよ! みぃんな、私ばっかりに押し付けてっ! って、お姉さん、聞いてまふ!?」
私が詰め寄ると、お姉さんは苦笑いを浮かべて頷く。
「えぇ、き、聞いてるわ……」
私がグラスに口を付けて傾けるが、一滴も出ない。
「ん? ……エール、おかわりくださぁい!」
私はカウンターのマスターに聞こえるように、大きな声で注文する。
「ちょ、ちょっとペース速くない? そろそろやめた方がいいわよ……」
「はぁ? 何言ってんでふか、うるはいでふよ!」
「さすがに、飲みすぎよ……」
酔いが回りすぎたのか、急に第三王子との婚約のことを思い出して、涙が溢れる。
「……うぐっ、わたひ……、王家の生贄なんでふよぉ……うっ」
「え!? 生贄!?」