もうブチギレましたので、家出します!〜なぜか私に迫ってきた妖艶な美女は、変人引きこもりの婚約者(♂)でした!?〜
4
マスターの言葉にショックを受け、私はふらふらとお店を後にする。
お姉さんを見つける手段は何もない。
また街で、偶然会えるのを待つしかないのだろうか……。
「お姉さん……」
不思議な人だった。私を助けてくれて、とても気が利いて、優しくて、夜の街が似合う妖艶な雰囲気を纏っている。
その一方で、どこか儚げで、雲のように掴めない感じがした。
「彼女はいったい、何者だったの……?」
「セ、セレス! セレスー!」
その時、私を呼ぶ聞き覚えのある声がする。
(お、お父様……!? まずい、見つかったわ!?)
父は私を探していたのが、こちらに駆け寄ってきた。
ゼイゼイと息を切らしている。着衣は乱れ、髪もボサボサだ。
「セ……レスッ、無事かっ!? 怪我は? 何もないか!?」
私の腕をしっかりと掴み、こちらを心配そうに見下ろす。
「……はい、大丈夫ですわ……」
(お父様は、私を、こんなに必死に探してくれていたの……!?)
「……そ、そうか……」
父は大きく息を吐いた後、安堵の表情を浮かべた。
「屋敷に戻るぞ。二人も心配して、寝ないで待っている」
そう言って私を促すが、私は俯いたまま動けない。
勝手に家を飛び出した手前、どう顔を合わせればいいのか分からなかった。
昨日は怒りに身を任せて家を飛び出したが、やりすぎたかもしれないと、少し胸が痛む。
「すまなかったな、セレス」
父が静かに呟く。
「え?」
私は驚いて顔を上げた。
「私たちはお前に頼りきっていた、……甘えていたんだ。反省しているよ。二人もそうだ」
「……お父様」
「……セレスが嫌だったら、縁談は断ろう。なに、もし爵位を剥奪されて平民に落ちても、四人で頑張れば、暮らしていけるさ!」
父はぎゅっと拳を作り、白い歯を見せ、はにかんだように微笑んだ。
「……お父様……」
(そこまで考えてくださったの……)
胸の奥が温かさで満たされていく。
「……お父様、私も家出してごめんなさい。……大丈夫ですわ、私……、ルイエス殿下の元へ嫁ぎます」
こうして私の家出騒動は、幕を閉じたのだった。
◇ ◇ ◇
王宮の薔薇が満開の庭園を、ルイエス殿下と散歩している。ルイエス殿下は先ほどから、一言も言葉を発しない。
(き……、気まずいですわ……)
私は小さく息を吐く。
本日は、ルイエス殿下との初めての顔合わせの日だった。父と私は王宮の応接間に呼ばれ、陛下から殿下の紹介を受けた。
そして、その後二人で庭園を散歩することになったのだが、会話をするどころか、殿下は俯いたまま、こちらを見ようともしなかった。
殿下は肩までの綺麗な金色の髪、スラリと脚が長くて身長は私の頭一つ分くらい高い。
長い前髪で顔を隠していて、表情は見えなかった。
私が殿下の様子を窺っていると、がばっと顔を背けられた。
(な……なんなのでしょうか? 嫌われてるんでしょうか……?)
陛下が先ほどおっしゃっていたが、殿下は幼少の頃のトラウマで、人が苦手なんだとか。
ふと、お姉さんの話を思い出す。
彼女も、人の好意や悪意に耐えかね、引きこもっていたと話してくれた。
(きっと、殿下も、心の繊細なお方なのかもしれないわ……)
私からあまり話しかけないほうがいいだろうと、黙って殿下の後をついていく。
ふと足元に、茶色の物体が近づいてくるのに気づく。
まるっとして、もふもふした、それは……。
「きゃあ! けっ、毛虫!?」
全身が総毛立ち、私は飛び上がった。
その時、スカートの裾を踏み、バランスを崩す。
転びそうになって目を閉じると、私の身体はしっかりと何かに支えられた。
ふわっと、嗅いだことのあるような、清涼感のある香りに包まれる。
(あれ……? この香り……どこかで……?)
「あの……大丈夫?」
耳元で聞こえたのは、聞き覚えのあるような少しハスキーな声だった。
私が弾かれたように顔を上げると、長い前髪から覗く紫色の瞳とかち合う。
(……あれ? 似てる……。とても、お姉さんに似てますわ……)
私が食い入るように殿下を見つめていると、殿下は突然震え出す。そして、両手で顔を隠した。
「あ……、あの……、あまり、私を見ないでくれ……っ」
お姉さんを見つける手段は何もない。
また街で、偶然会えるのを待つしかないのだろうか……。
「お姉さん……」
不思議な人だった。私を助けてくれて、とても気が利いて、優しくて、夜の街が似合う妖艶な雰囲気を纏っている。
その一方で、どこか儚げで、雲のように掴めない感じがした。
「彼女はいったい、何者だったの……?」
「セ、セレス! セレスー!」
その時、私を呼ぶ聞き覚えのある声がする。
(お、お父様……!? まずい、見つかったわ!?)
父は私を探していたのが、こちらに駆け寄ってきた。
ゼイゼイと息を切らしている。着衣は乱れ、髪もボサボサだ。
「セ……レスッ、無事かっ!? 怪我は? 何もないか!?」
私の腕をしっかりと掴み、こちらを心配そうに見下ろす。
「……はい、大丈夫ですわ……」
(お父様は、私を、こんなに必死に探してくれていたの……!?)
「……そ、そうか……」
父は大きく息を吐いた後、安堵の表情を浮かべた。
「屋敷に戻るぞ。二人も心配して、寝ないで待っている」
そう言って私を促すが、私は俯いたまま動けない。
勝手に家を飛び出した手前、どう顔を合わせればいいのか分からなかった。
昨日は怒りに身を任せて家を飛び出したが、やりすぎたかもしれないと、少し胸が痛む。
「すまなかったな、セレス」
父が静かに呟く。
「え?」
私は驚いて顔を上げた。
「私たちはお前に頼りきっていた、……甘えていたんだ。反省しているよ。二人もそうだ」
「……お父様」
「……セレスが嫌だったら、縁談は断ろう。なに、もし爵位を剥奪されて平民に落ちても、四人で頑張れば、暮らしていけるさ!」
父はぎゅっと拳を作り、白い歯を見せ、はにかんだように微笑んだ。
「……お父様……」
(そこまで考えてくださったの……)
胸の奥が温かさで満たされていく。
「……お父様、私も家出してごめんなさい。……大丈夫ですわ、私……、ルイエス殿下の元へ嫁ぎます」
こうして私の家出騒動は、幕を閉じたのだった。
◇ ◇ ◇
王宮の薔薇が満開の庭園を、ルイエス殿下と散歩している。ルイエス殿下は先ほどから、一言も言葉を発しない。
(き……、気まずいですわ……)
私は小さく息を吐く。
本日は、ルイエス殿下との初めての顔合わせの日だった。父と私は王宮の応接間に呼ばれ、陛下から殿下の紹介を受けた。
そして、その後二人で庭園を散歩することになったのだが、会話をするどころか、殿下は俯いたまま、こちらを見ようともしなかった。
殿下は肩までの綺麗な金色の髪、スラリと脚が長くて身長は私の頭一つ分くらい高い。
長い前髪で顔を隠していて、表情は見えなかった。
私が殿下の様子を窺っていると、がばっと顔を背けられた。
(な……なんなのでしょうか? 嫌われてるんでしょうか……?)
陛下が先ほどおっしゃっていたが、殿下は幼少の頃のトラウマで、人が苦手なんだとか。
ふと、お姉さんの話を思い出す。
彼女も、人の好意や悪意に耐えかね、引きこもっていたと話してくれた。
(きっと、殿下も、心の繊細なお方なのかもしれないわ……)
私からあまり話しかけないほうがいいだろうと、黙って殿下の後をついていく。
ふと足元に、茶色の物体が近づいてくるのに気づく。
まるっとして、もふもふした、それは……。
「きゃあ! けっ、毛虫!?」
全身が総毛立ち、私は飛び上がった。
その時、スカートの裾を踏み、バランスを崩す。
転びそうになって目を閉じると、私の身体はしっかりと何かに支えられた。
ふわっと、嗅いだことのあるような、清涼感のある香りに包まれる。
(あれ……? この香り……どこかで……?)
「あの……大丈夫?」
耳元で聞こえたのは、聞き覚えのあるような少しハスキーな声だった。
私が弾かれたように顔を上げると、長い前髪から覗く紫色の瞳とかち合う。
(……あれ? 似てる……。とても、お姉さんに似てますわ……)
私が食い入るように殿下を見つめていると、殿下は突然震え出す。そして、両手で顔を隠した。
「あ……、あの……、あまり、私を見ないでくれ……っ」