今日の恋、予報します。
 光晴をソファに座らせて、水を持ってくる。


 「ちゃんと飲んで」


 「はい」


 「薬は?」


 「飲んだ」


 「ご飯は?」


 「……あんまり」


 「もう」


 私はキッチンを覗く。


 冷蔵庫を開けると、食べられそうなものが少しだけ入っていた。


 「何か食べる?」


 「いいよ」


 「ダメ」


 「でも――」


 「病人はちゃんと食べる!」


 「……はい」


 「何がいい?」


 「ゼリー」


 「分かった」


 ゼリーを出して、スプーンを渡す。


 みつはるは大人しく食べ始めた。


 「……なんか」


 「ん?」


 「晴山、お母さんみたい」


 「…………」


 「怒られる?」


 「怒る」


 「やっぱり」


 「病人なのに余計なこと言わない!」


 「はいはい」


 笑うみつはる。


 その顔を見ていると、少し安心する。


 でも。


 まだ顔は赤い。


 「……本当に大丈夫?」


 「大丈夫」


 「熱、測って」


 「えー」


 「えーじゃない」


 体温計を渡す。


 数分後。


 「……38.2」


 「えっ」


 思わず声が出た。


 「結構あるじゃん!」


 「そう?」


 「そうだよ!」


 「じゃあ寝る」


 「うん。寝て」


 布団をかける。


 みつはるが目を閉じる。


 「……晴山」


 「ん?」


 「ありがと」


 「……どういたしまして」


 「来てくれて、嬉しかった」


 「…………」


 胸が、きゅっとした。


 「……早く治してね」


 「うん」


 みつはるが目を閉じる。


 しばらくすると、静かな寝息が聞こえてきた。


 「……寝たかな」


 私はそっと立ち上がる。


 そのとき。


 テーブルの上に置かれたスマホが目に入った。


 画面が点灯している。


 「……?」


 通知が来ている。



 《今日の恋愛天気予報》



 私は思わず足を止めた。


 「…………」


 見てはいけない。


 そう思った。


 でも、ほんの一瞬だけ。


 画面が見えてしまった。


 そこには――



 ☀️ 快晴

 『今日は、好きな人が家に来てくれるかも』



 「…………」


 息が止まった。


 「え?」


 私は思わず画面を二度見する。


 好きな人が。


 家に。


 来てくれるかも。


 今日、光晴の家に来たのは――


 「…………」


 私だけ。


 先生に頼まれたとはいえ。


 今、この家にいるのは、私だけ。


 「…………」


 心臓が、どくん、と鳴った。


 待って。


 落ち着いて。


 まだ決まったわけじゃない。



 私の予報には、


 『相手の気持ちを知れるでしょう』


 みつはるの予報には、


 『好きな人が家に来てくれるかも』


 そして。


 実際に起こったことは――


 私がみつはるの家に来た。


 「…………」


 じゃあ。


 もしかして。


 みつはるの好きな人って――


 「…………私?」


 口に出した瞬間。


 顔が熱くなる。


 「いやいやいや!」


 私は慌てて首を振った。


 「そんなわけ……」


 でも。


 否定しようとすると。


 胸の奥が、きゅっと締めつけられる。


 だって、もし違うなら。


 もしみつはるの好きな人が別の女の子なら。


 この予報は、どういう意味?


 「…………」


 私は眠っているみつはるを見る。


 いつもより少し弱々しい顔。


 でも。


 やっぱり、好き。


 「……知りたい」


 小さく呟く。


 みつはるの好きな人。


 それが誰なのか。


 今まで怖くて聞けなかった。


 だけど、もしかしたら。


 ほんの少しだけ。


 期待してもいいのかもしれない。


 「……明日」


 私はスマホを握りしめた。


 「聞いてみようかな」


 ――みつはるの好きな人って、誰?


 そう聞いたら。


 彼は、なんて答えるんだろう。


 私はそんなことを考えながら、眠っているみつはるのそばに座った。


 窓から差し込む午後の日差しは、いつの間にか雲を抜けていた。


 朝は、くもりだったのに。


 今は――


 綺麗な晴れ。


 私は窓の外を見ながら、ふと思った。


 今日の恋愛天気予報は。


 今までで一番、私の心を揺らしているのかもしれない。
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