今日の恋、予報します。
 家に帰って、制服から部屋着に着替える。


 ベッドに倒れ込んで、今日一日のことを思い返す。


 「……さくら、かぁ」


 たった一度。


 名前を呼ばれただけ。


 それなのに、思い出すだけで頬が熱くなる。


 「……え、なにこれ……やば……」


 枕に顔を埋める。


 でも。


 私がみつはるを好きになったのは、今日のことなんかじゃない。


 ――高校三年生の始業式。


 新しいクラス。


 新しい教室。


 中庭、桜の木の下で。


 「……あの」


 突然、後ろから声がした。


 「ちょっと、待って」


 「え?」


 振り返る。


 そこにいたのが、天野光晴だった。


 「動かないで」


 「……え、なに、え?」


 彼が近づいてくる。


 え、ちょ、待って、近い近い近い――


 って思った瞬間。


 私の頭に手が伸びてきて。


 指先が、髪に触れた。


 「ついてた」


 「……え?」


 彼の指先には、一枚の桜の花びら。


 「これ」


 「……あ」


 たったそれだけ。


 ただ、頭についてた桜を取ってくれただけ。


 なのに。


 「……なにそれ……」


 その何気ない仕草と、ちょっとだけ優しい顔が――


 ずるいくらい、眩しかった。


 「…………」


 思い出しただけで、胸がぎゅってなる。


 「……無理無理」


 枕をぎゅっと抱きしめる。


 「やっぱり好き……!!」


 言った瞬間。


 「うわぁぁぁぁ!!」


 自分で叫んで、枕に顔を埋めた。


 「なに言ってんの私!!どーしよう!!」


 ごろごろごろごろベッドの上を転がる。


 あの日からずっと。


 あの顔見るたびに、心臓おかしくなるし。


 ちょっと近いだけで、もう無理だし。


 ……なのに。


 本人は、たぶん何も気づいてない。


 「……ほんと、ずるい……」


 小さく呟く。


 今日も結局、何も言えなかった。


 でも。


 最後に呼ばれた、


 「さくら」


 その声を思い出した瞬間。


 「……っ」


 勝手に口元がゆるむ。


 「なにこれ……ずる……」


 布団をかぶりながら、顔が熱いのを隠す。


 「……明日、どうしよ……」


 でも。


 「……もうちょい、頑張ろ」


 小さくそう言って、スマホを手に取る。


 画面には、朝届いた謎の通知。



 《今日の恋愛天気予報》

 ☀️ 快晴

 『今日は、好きな人から名前を呼ばれるでしょう』



 「……当たるのやば……」


 思わず笑ってしまう。


 「……次もまた、出るのかな」


 ちょっとだけ期待して。


 私は布団の中で、そっと目を閉じた。
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