今日の恋、予報します。

くもり時々、視線

 あれから、一週間が経った。


 あの日の朝に届いた、謎の《恋愛天気予報》。


 最初は偶然だと思っていた。


 ……というか、思いたかった。


 だって、そうじゃないと困る。


 毎朝スマホを開くたびに、


 「今日は何が起こるんだろう」


 なんて期待するようになってしまうから。


 それじゃあまるで――


 本当に、恋する女の子みたいじゃん。


 ……いや、もう十分恋してるんだけど。


 「はぁ……」


 私は机に頬杖をつきながら、小さくため息をついた。


 そして、今日もいつものようにスマホを確認する。


 すると。


 ――ピコン。


 通知が一件。


 「……また?」


 画面を開く。


 そこには、あの日以来、二度目となる通知が表示されていた。



 《今日の恋愛天気予報》

 ☁️ くもり

 『今日は、相手の視線を感じるかも』



 「…………」


 思わず瞬きをする。


 「視線……?」


 それってつまり。


 好きな人が、私を見るってこと?


 同じクラスなんだから。


 目が合うことくらいある。


 ……ある、よね?


 「……絶対、偶然」


 自分に言い聞かせるように呟いて、スマホを伏せた。


 あんな予報、あてにしちゃだめ。


 そう思っていた。


 ――数時間後。


 「では、この問題を……」


 先生の声が、遠くに聞こえる。


 五時間目。


 昼食後。


 そして、窓から差し込む暖かい日差し。


 眠くないわけがない。


 「……」


 まぶたが重い。


 ダメ。


 寝ちゃダメ。


 高校三年生なんだから。


 受験だってあるし。


 何より――


 「……ねむ」


 ぼそっと呟いて、黒板を見る。


 数字。


 記号。


 数字。


 ……。


 …………。


 ……なんだっけ、これ。


 「…………」


 気づけば、視界がぼんやりしていた。


 あ、まずい。


 このままだと寝る。


 でも、ほんのちょっとだけ。


 五秒。


 いや、三秒だけ。


 「…………」


 こく。


 頭が少し落ちる。


 その瞬間だった。


 ――視線を感じた。


 「……?」


 なんだろう。


 誰かに見られているような。


 なんとなく顔を上げる。


 そして前を見る。


 「…………っ」


 心臓が跳ねた。


 少し離れた席。


 みつはるが、こっちを振り返っていた。


 「…………」


 目が合う。


 え。


 なんで。


 なんでこっち見てるの。


 「……?」


 私が首を傾げると。


 みつはるの口が、ゆっくり動いた。


 声は聞こえない。


 でも、口の形だけは分かった。


 ――ね。


 ――る。


 ――な。


 ――よ。


 「…………」


 …………え?


 寝るなよ。


 そう言った?


 今?


 私に?


 「…………っ」


 待って。


 いやいやいや。


 無理無理無理。


 予報。


 予報通りすぎる。


 《今日は、相手の視線を感じるかも》


 感じた。


 めちゃくちゃ感じた。


 というか、視線どころか注意された。


 しかも先生じゃなくて、みつはるに。


 私が慌てて背筋を伸ばすと、みつはるは満足そうに笑った。


 そして、何事もなかったかのように前を向く。


 「…………」


 私はしばらく固まった。

 
 え、なに。


 今の。


 何なの。


 「……ずる」


 思わず小さく呟く。


 だって。


 あんなふうに振り返って。


 私だけを見て。


 「寝るなよ」なんて。


 そんなの――


 もっと好きになるに決まってるじゃん。


 「…………」


 顔が熱い。


 絶対、今の私、顔赤い。


 先生の話なんて、もう頭に入ってこない。


 ノートには意味の分からない数字が並んでいる。


 黒板を見る。


 でも、さっきのみつはるの顔が頭から離れない。


 ――ね、る、な、よ。


 「…………っ」


 思い出すだけで恥ずかしい。


 私は机の下で、そっと頬を押さえた。


 熱い。


 「……もう……」


 なんであんなことするの。


 しかも本人は、たぶん何も考えてない。


 みつはるにとっては、


 「友達が寝そうだったから起こした」


 それだけなんだろう。


 きっとそう。


 ……そうだよね?


 「…………」


 なのに。


 どうして私は、こんなにドキドキしてるんだろう。



 授業が終わって、チャイムが鳴る。


 私はようやく息を吐いた。


 「はぁ……」


 すると。


 「晴山」


 「っ!?」


 突然、後ろから声がした。


 振り返る。


 みつはるが立っている。


 「な、なに?」


 「さっき寝そうだったでしょ」


 「……寝てないし」


 「寝てた」


 「寝てない!」


 「じゃあ、なんで三回も頭落ちてたの?」


 「…………」


 見られてた。


 全部。


 「……もう」


 恥ずかしくなって俯く。


 するとみつはるが、くすっと笑った。


 「次の授業は寝るなよ」


 「……分かってる」


 「ほんと?」


 「ほんと!」


 「じゃあ、約束」


 「……約束」


 指切りでもするのかと思った。


 けれどみつはるは、それだけ言って自分の席へ戻っていく。


 私はその背中を見つめる。


 「…………」


 今日も。


 また、何も進展していない。


 ……たぶん。


 でも。


 机の上に置いたスマホを見る。


 朝の通知がまだ残っている。



 ☁️ くもり
 『今日は、相手の視線を感じるかも』



 「…………」


 私は小さく笑った。


 「……本当に、当たるんだ」


 そして、私は次の授業の準備を始めた。


 ……もちろん。


 眠らないように、頬をつねりながら。
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