今日の恋、予報します。

小雨、君にやきもち

 三日後。


 朝。


 ――ピコン。


 「……ん?」


 聞き慣れ始めた通知音。


 私はベッドの中でスマホを手に取った。



 《今日の恋愛天気予報》

 🌧️ 小雨

 『今日は、好きな人に少しだけ嫉妬するでしょう』



 「…………」


 嫌な予感しかしない。


 「嫉妬って……」


 私は画面をじっと見つめる。


 そもそも。


 私がみつはるに嫉妬することなんて、今に始まったことじゃない。


 だって、あいつは――


 誰にでも距離が近い。


 女子と話すときも、普通に笑う。


 名前も呼ぶ。


 冗談を言う。


 時には顔を近づけたりもする。


 ……いや、近いんだよ、距離がバグなの。


 本当に。


 本人にその自覚がないのが、一番タチが悪い。


 「……はぁ」


 朝からため息をつきながら学校へ向かった。


 そして。


 予報は、見事に的中した。


 「天野くん、昨日のカラオケ楽しかったね!」


 「うん、めっちゃ楽しかった!」


 教室に入った瞬間、聞こえてきた会話。


 「…………」


 私は自分の席で固まった。


 ……カラオケ?


 昨日?


 「また行こうよ!」


 「いいよ。今度はもっと人数集めよ」


 「約束ね!」


 「おう」


 ……。


 「…………」


 なんだろう。


 胸の奥が、もやっとする。


 別に、カラオケくらい友達と行くことだってある。


 男女で行ったって普通だ。


 分かってる。


 分かってるけど――


 「……私と話してる時より、楽しそう」


 ぽろっと、言葉がこぼれた。


 慌てて口を閉じる。


 「…………」


 何言ってんの、私。


 そんなの比べるものじゃない。


 みつはるは誰にでも優しい。


 私だけ特別じゃない。


 それくらい、最初から分かってたじゃん。


 なのに。


 「…………はぁ」


 胸がちくっとする。


 昼休み。


 みつはるが女子数人と話している。


 「それでさー」


 「えー、なにそれ!」


 「だろ?」


 楽しそう。


 すごく楽しそう。


 私はお弁当を食べながら、ちらちらそっちを見てしまう。


 ……見ない。


 もう見ない。


 そう思っているのに。


 また見てしまう。


 「…………」


 そして、目が合った。


 「!」


 みつはるが笑う。


 「晴山、今日静かじゃん」


 「……そう?」


 「うん。なんかぼーっとしてる」


 「別に」


 「具合悪い?」


 「大丈夫」


 「ほんと?」


 「ほんとだって」


 「そっか」


 それだけ。


 それだけ言って、みつはるはまたみんなとの会話に戻っていく。


 「…………」


 ……ほら。


 私と話す時間なんて、こんなもの。


 ほんのちょっと。


 なのに、他の子とはあんなに楽しそうに話してる。


 「……脈ないなぁ」


 小さく呟いた。


 自分で言っておいて、ちょっと悲しくなる。


 そもそも。


 私はまだ告白すらしてない。


 脈があるかないか以前の問題なのに。


 「……ばか」


 自分に向かって呟く。


 放課後。


 帰り道を歩きながら、朝の通知を思い出す。


 🌧️ 小雨

 『今日は、好きな人に少しだけ嫉妬するでしょう』


 「……少しだけ、ね」


 私は空を見上げる。


 灰色の雲が広がっていた。


 「……全然、少しじゃなかったんだけど」


 むしろ。


 一日中、ずっと気にしてた。


 カラオケに行ったことも。


 楽しそうに笑っていたことも。


 私以外の女の子と話していることも。


 全部。


 「……好きだから、気になるんだよね」


 認めた瞬間、恥ずかしくなって俯く。


 でも。


 ふと、スマホを見る。


 朝の予報はまだ消えていない。


 「…………」


 これまでの予報は、全部当たっている。


 名前を呼ばれた日。


 視線を感じた日。


 そして今日。


 「……じゃあ、次は?」


 そんなことを考えてしまった自分に、思わず苦笑する。


 「もう……期待するのやめようと思ったのに」


 それでも私は。


 次、また通知が届くことを――


 ほんの少しだけ、楽しみにしていた。
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