今日の恋、予報します。
 教室に着いて、席に座る。


 鞄から教科書を出して、筆箱を机の上に置く。


 そして。


 なんとなくスマホを机の端に置いた。


 朝の予報をもう一度見る。



 ☀️ 快晴

 『今日、好きな人と距離が縮まるでしょう』



 「…………」


 ……本当に、何が起こるんだろう。


 隣の席では友達が話している。


 窓の外では、雲ひとつない青空。


 今日は、本当に快晴だった。


 そんなことを考えていると。


 「晴山」


 「ひゃっ!?」


 突然、後ろから声がした。


 「……え?」


 振り返る。


 そこには。


 「おはよ」


 天野光晴だ。


 「……お、おはよ」


 朝から心臓に悪い。


 「何してんの?」


 「え?」


 光晴が私の机を見る。


 そして、机の上に置かれたスマホに視線を落とした。


 「それ」


 「……?」


 「いつから来てるの?」


 「…………」


 一瞬、意味が分からなかった。


 「え?」


 「それ。通知来てるじゃん」


 みつはるが指差したのは、もちろん。



 《今日の恋愛天気予報》



 「…………」


 「……あ」


 見られた。


 最悪。


 よりによって。


 「い、いつからって……」


 「うん」


 「……ちょっと前?」


 「どれくらい?」


 「…最近!」


 「ふーん」


  光晴が自分のスマホを取り出した。


 「……これ」


 「……え?」


 彼が画面をこちらに向ける。


 そこには。



 《今日の恋愛天気予報》

 ☀️ 快晴

 『今日、好きな人と距離が縮まるでしょう』



 「…………」


 「…………」


 「…………え?」


 思考が止まった。


 「同じじゃん……!」


 「俺にも来てる」


 「…………」


 嘘。


 じゃあ。


 この予報は。


 私だけじゃなかった。


 私とみつはる。


 二人に届いていた。


 「いつから?」


 「俺は結構前」


 そう言って、光晴は笑った。


 なんだろう。


 その笑顔。


 いつもと変わらないはずなのに。


 今日は妙に意識してしまう。


 だって。


 今、私たちは同じものを見ている。


 同じ予報を受け取っている。


 「……ねえ」


 みつはるが言った。


 「ん?」


 「晴山の好きな人って誰?」


 「…………」


 「え?」


 あまりにも自然な声だった。


 何食わぬ顔で聞いてくる。


 「な、なんで?」


 「だって、これ」


 彼が自分のスマホを軽く振る。


 「『好きな人と距離が縮まる』って書いてあるじゃん」


 「……それは」


 「晴山の好きな人って誰なのかなって」


 「…………」


 なんで。


 なんでそんなこと、普通の顔で聞けるの。


 こっちは心臓が爆発しそうなのに。


 「……いない」


 「え?」


 「好きな人なんて、いない」


 反射的に答えた。


 「……ふーん」


 「本当にいないから」


 「そっか」


 みつはるはそれ以上追及しなかった。


 「…………」


 なんだ。


 聞くだけ聞いて終わり?


 ちょっとくらい驚いてよ。


 「じゃあ、みつはるは?」


 気づけば、口から出ていた。


 みつはるが私を見る。


 「俺?」


 「……好きな人、いる?」


 聞いてしまった。


 聞きたくなかったのに。


 もし「いない」って言われたら嬉しい。


 でも。


 もし「いる」って言われたら――。


 胸が痛くなる。


 「……いるよ」


 「…………」


 心臓が、止まった。


 ような気がした。


 「……え」


 みつはるは、何でもないことみたいに言った。


 「俺はいる」


 「…………」


 「好きな人」


 「…………だ、誰?」


 声が上ずった。


 自分でも分かる。


 動揺してる。


 ものすごく。


 みつはるはそんな私を見て。


 「ふーん」


 と、少しだけ口元を上げた。


 「晴山、気になる?」


 「ち、違っ……!」


 違わない。


 めちゃくちゃ気になる。


 誰。


 誰なの。


 同じクラス?


 他のクラス?


 前から好きだった人?


 それとも――。


 頭の中に次々と女子の顔が浮かぶ。


 「…………」


 嫌だ。


 知りたくない。


 でも、知りたい。


 「だ、誰?」


 もう一度聞く。


 するとみつはるは、少しだけ考えるように視線を逸らした。


 そして。


 「……内緒」


 「…………」


 「じゃ、またあとで」


 「えっ、ちょっ――」


 みつはるはそのまま自分の席へ戻っていった。


 「…………」


 私は完全に固まった。


 「内緒……」


 その二文字が頭の中をぐるぐる回る。


 いる。


 みつはるには好きな人がいる。


 しかも。


 私には教えてくれない。


 「…………」


 胸が、ざわざわする。


 さっきまで、


 『好きな人と距離が縮まるでしょう』


 なんて予報を見て、少し浮かれていた自分が馬鹿みたいだった。


 ……だって。


 もし今日、距離が縮まるとしても。


 それは、みつはるが好きな誰かとの距離なのかもしれない。


 「…………はぁ」


 机に突っ伏す。


 「聞かなきゃよかった……」


 でも。


 その直後。


 ふと顔を上げる。


 「……待って」


 何かがおかしい。


 みつはるにも、同じ予報が届いている。


 私にも。


 そして今日の予報は――


 『好きな人と距離が縮まるでしょう』


 もし。


 もしみつはるの好きな人が、私だったら?


 「…………」


 いやいやいや。


 何考えてるの、私。


 そんなわけない。


 だってみつはるは、誰にでも優しい。


 誰にでも距離が近い。


 女の子と話すのだって慣れてる。


 だから、私に話しかけてくるのも。


 名前を呼ぶのも。


 笑いかけるのも。


 全部、いつものこと。


 「…………」


 ……なのに。


 どうしてだろう。


 さっきの、


 「俺はいる」


 という言葉が、何度も頭の中で繰り返される。


 ――もしかしたら。


 今日、距離が縮まるのは。


 私と、みつはるなのかもしれない。


 「…………」


 でも。


 もし本当にそうだったら。


 私はきっと。


 今よりもっと、あなたを好きになってしまう。


 そんな予感がした。
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