大嫌いな兄の友人は、国民的アイドルです。

ep21 この写真、知ってるよね?



「……どうしたの?」

悠が楽屋の入り口に立っている。

私は慌てて写真を手の中に隠した。

「何でもない」

「……美緒」

「本当に何でもないから」

悠は、じっと私を見る。

いつもの柔らかい表情じゃない。

何かを探るような目。

「……何かあった?」

「ない」

「嘘」

「嘘じゃない」

「じゃあ、何隠してるの?」

「……」

私は答えられなかった。

この写真を見せたら。

きっと、何かが変わる。

そんな気がした。

でも。

もう逃げるのも嫌だった。

私はゆっくり手を開いた。

「……これ」

悠に写真を差し出す。

悠は写真を見た瞬間。

動きを止めた。

「……」

「知ってるよね?」

「……」

「これ、どこから来たの?」

悠は写真から目を離さない。

「美緒」

「何?」

「これ……誰から?」

「分からない」

「……」

「今日、スタッフさんから渡された」

「手紙も?」

「うん」

私は封筒を見せる。

悠の顔が、さらに険しくなった。

「……見せて」

「いいけど」

手紙を渡す。

悠は裏返したり、表を確認したりしている。

まるで。

送り主を探しているみたいに。

「……悠?」

「……これ、玲央の字じゃない」

「え?」

「玲央じゃない」

「じゃあ誰?」

「分からない」

「本当に?」

「うん」

悠はそう言った。

でも。

私は気づいてしまった。

悠の手が。

少し震えている。

「……悠」

「ん?」

「怖い?」

「……」

「何か知ってるんでしょ」

悠は答えなかった。

私は写真を取り返した。

「この写真」

写真には。

幼い私。

その隣に兄。

そして、その隣に悠。

三人で笑っている。

「いつ撮ったの?」

「……覚えてない」

「嘘」

「……」

「悠なら覚えてるでしょ」

「……美緒」

「何?」

「その写真、もう持たないほうがいい」

「なんで?」

「捨てて」

「嫌」

「美緒」

「嫌だよ」

私は写真を胸元に抱えた。

「私の兄のことなんだから」

「……」

「私が知らないことを、みんなが知ってるのは嫌」

悠が目を伏せる。

「……そうだよね」

「だったら教えて」

「……今は無理」

「またそれ?」

「ごめん」

「謝ってばっかりじゃん」

私は思わず声を荒げた。

「悠はいつもそう!」

「……」

「何か知ってるくせに、何も言わない!」

「……」

「お兄ちゃんもそう!」

「美緒」

「私だけ置いていかないでよ!」

言った瞬間。

自分でも驚いた。

楽屋が静まり返る。

悠はしばらく何も言わなかった。

そして。

ゆっくり私の前まで歩いてくる。

「……置いていかない」

「……」

「絶対に」

その声は。

いつもの悠とは違った。

冗談も。

笑顔もない。

ただ、真っ直ぐだった。

「でも」

悠は続ける。

「今は、俺から話せない」

「……」

「玲央が自分で話すまで」

「お兄ちゃんが……?」

「うん」

「じゃあ、お兄ちゃんは全部知ってるの?」

悠は少しだけ黙って。

「……知ってる」

その答えに。

胸が締めつけられた。

兄は知っている。

悠も知っている。

昔の仲間も知っている。

なのに。

私だけが知らない。

「……分かった」

私は写真を封筒に戻した。

「もう聞かない」

「美緒……」

「お兄ちゃん本人から聞く」

「……」

「それまで待つ」

そう言って笑った。

でも。

たぶん。

うまく笑えていなかった。

⸻

その夜。

ホテルに戻った私は。

ベッドの上で、もう一度写真を見た。

幼い私。

笑っている兄。

そして。

少し照れたように笑っている悠。

「……この頃は、何も知らなかったんだよね」

私は写真を裏返した。

そこには。

昼間見た一文。

『この頃から、すべてが始まっていた。』

「……何が?」

私は指で、その文字をなぞった。

そのとき。

スマホが震えた。

知らない番号から、メッセージ。

『写真を見た?』

「……!」

心臓が跳ねる。

すぐに返信する。

『あなたは誰ですか?』

既読。

数秒後。

返信が来た。

『玲央のことを知りたいなら、悠には聞かないこと。』

「……え?」

続けて。

『あの子は、玲央との約束を守っているだけだから。』

私は画面を見つめた。

「あの子……?」

そして。

もう一通。

『知りたければ、昔の事務所を調べて。』

「……昔の事務所?」

その瞬間。

画面から目が離せなくなった。

兄と悠が研究生だった場所。

二人がアイドルを目指した場所。

そして。

兄の人生が大きく変わった場所。

「……そこに、何があるの?」

私はスマホを握りしめた。

もう。

知らないふりはできなかった。
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