目覚めたら、最推しの腕の中でした~1度終わった私の人生、もう一度恋をしました。~
第37話 推しがママの彼氏とか聞いてません
星に。
本当のことを話してから。
三日後。
私たちは。
とんでもなく。
気まずい食事会を。
開こうとしていた。
参加者。
私。
娘の星。
そして。
私の彼氏。
天城陽向。
「……」
私は。
個室のテーブルで。
一人。
頭を抱えていた。
情報だけ並べると。
本当に。
意味が分からない。
前の人生で。
娘と一緒に。
テレビで応援していた。
最推しアイドル。
その人が。
今。
私の彼氏。
そして。
今日。
娘に。
『ママの彼氏』として。
紹介する。
「……何この人生」
思わず。
呟く。
すると。
スマートフォンが震えた。
陽向。
『着いた』
続けて。
星。
『私も着いた』
「……二人同時」
嫌な予感しかしない。
私は。
二人へ。
同じメッセージを送った。
『個室だからそのまま来て』
数分後。
コンコン。
「はい」
ドアが。
ゆっくり開く。
最初に。
顔を出したのは。
星。
「……ママ」
「うん」
「緊張する」
「私も」
「帰っていい?」
「ダメ」
「だよね」
星が。
そろそろと。
部屋へ入ってくる。
その直後。
もう一度。
ノック。
「どうぞ」
今度は。
陽向。
帽子。
眼鏡。
マスク。
完全装備。
ドアを閉めてから。
全部外す。
「……お疲れ」
私が言う。
「お疲れ」
そして。
陽向が。
星を見る。
星も。
陽向を見る。
「……」
「……」
沈黙。
長い。
「えっと」
私が。
口を開く。
「二人とも」
「前に会ってるよね?」
「会ってる」
陽向。
「会ってます」
星。
「じゃあ」
私は。
無理やり笑う。
「今日は改めて」
一度。
息を吸う。
「娘の星です」
陽向が。
ものすごく。
真面目な顔になる。
「……はい」
「で」
私は。
今度は。
陽向を見る。
「彼氏の陽向です」
星が。
両手で。
顔を覆った。
「無理!」
「まだ何も始まってないよ!?」
「ママ!」
「何?」
「言葉にしないで!」
「何を?」
「彼氏の陽向ですって!」
陽向まで。
耳が。
真っ赤。
「俺もちょっと恥ずかしい」
「何で陽向まで!」
「だって」
陽向が。
星を指す。
「この子」
「俺のファンなんでしょ?」
星が。
勢いよく。
顔を上げる。
「はい!」
「返事だけ速い」
私が。
思わず言う。
「だって陽向くんに聞かれたから!」
「ママより返事いいじゃん」
「当たり前でしょ!」
「当たり前なんだ……」
すると。
陽向が。
急に。
胸を押さえた。
「待って」
「何?」
「俺」
ものすごく。
複雑そうな顔。
「彼女の娘から」
「陽向くんって呼ばれて」
「ファンですって言われて」
「でもその子の母親と付き合ってるんだよな?」
「そう」
「……情報量」
「多いでしょ?」
「多すぎ」
星も。
真顔で頷いた。
「私もです」
「星も?」
「推しが」
陽向を見る。
「ママの彼氏」
次に。
私を見る。
「しかもママは」
言葉を止める。
「……今、一ノ瀬紗良さんの見た目」
「うん」
「もう」
星が。
両手を広げる。
「意味分かんない!」
「私も!」
陽向が。
吹き出した。
「あはははっ!」
「笑わないでください!」
「ごめんごめん!」
でも。
陽向が笑ったことで。
少しだけ。
空気が。
柔らかくなった。
◇◇◇
「とりあえず」
私は。
メニューを開く。
「ご飯食べよ」
「賛成」
陽向が。
すぐに乗ってくる。
「星、何食べる?」
「……」
返事がない。
「星?」
見ると。
星は。
メニューではなく。
陽向を見ている。
「……本物」
「この前も言ってたよ」
「でも」
星が。
小声になる。
「今日は」
「?」
「ママの彼氏として」
陽向を見る。
「隣にいる……」
「……」
陽向が。
また。
顔を赤くする。
「星ちゃん」
「はい!」
「その」
咳払い。
「彼氏彼氏言うの」
「俺もまだ慣れてない」
「え?」
星が。
目を丸くする。
「陽向くんでも?」
「でもって何」
「だって」
少し。
照れながら。
「何でも余裕ありそうだから」
「ないない」
陽向が。
首を振る。
「美月相手だと」
「結構ない」
「ちょっと!」
私が。
止める。
星の視線が。
ゆっくり。
私に移る。
「……美月」
「あ」
陽向が。
口を押さえる。
遅い。
星は。
じっと。
陽向を見る。
「ママのこと」
「美月って呼んでるんですね」
「……はい」
なぜか。
陽向。
敬語。
「いつから?」
「星」
「何?」
「尋問しないで」
「だって気になる!」
陽向が。
少し笑う。
「最初は紗良って呼んでた」
「……」
星の表情が。
少し。
変わった。
「でも」
陽向は。
私を見る。
「今は」
「美月」
「……」
「俺が話してるのは」
「美月だから」
星が。
黙った。
私は。
少し。
恥ずかしくなる。
でも。
星の顔を見ると。
何か。
嬉しそうだった。
「……そっか」
小さな声。
「星?」
「ううん」
「何?」
「ちゃんと」
私を見る。
「ママのこと」
「ママとして」
「見てくれてるんだなって」
胸が。
温かくなる。
陽向は。
少し。
困ったように笑った。
「俺にとっては」
「高瀬美月だから」
「……」
「一ノ瀬紗良の身体でも」
「そこは」
「変わんない」
星の目に。
少しだけ。
涙が浮かんだ。
「ありがとう……ございます」
「え?」
「ママを」
星が。
少し笑う。
「見つけてくれて」
今度は。
陽向が。
何も言えなくなった。
私は。
胸が。
ぎゅっと。
締めつけられた。
見つけてくれた。
最初は。
信じてもらえなかった。
傷つけられたことも。
あった。
それでも。
最後には。
陽向は。
私を。
私として。
見つけてくれた。
「……俺のほうこそ」
陽向が。
少しだけ。
目を細める。
「美月のこと」
「いっぱい教えてくれて」
「ありがとう」
「私?」
「うん」
「星ちゃんが」
「昔の美月の話してくれるから」
私を見る。
「俺の知らない美月」
「知れる」
星が。
ぱっと。
顔を上げた。
「いっぱいあります!」
「星!」
嫌な予感。
「何?」
「何でも話さないでよ?」
「えー」
「何その反応」
陽向が。
すごく。
楽しそうに身を乗り出す。
「聞きたい」
「陽向!」
「昔の美月」
「聞きたい」
「聞かなくていい!」
「何で?」
「恥ずかしい!」
星が。
ニヤッとする。
「じゃあ」
「何?」
「ママが」
一度。
私を見る。
「陽向くんのライブ映像見ながら」
「ちょっと待って」
「『今日ビジュいい!』って」
「星!」
陽向が。
大笑いする。
「あはははっ!」
「やめて!」
「他にも」
「まだあるの!?」
「『この髪型好き』とか」
「星ー!」
「『今日めっちゃ可愛い』とか」
陽向が。
テーブルに。
突っ伏した。
肩が。
震えている。
「笑いすぎ!」
「いや」
顔を上げる。
ものすごく。
嬉しそう。
「嬉しい」
「……」
「昔から」
私を見る。
「そんな見てたんだ」
「……ファンだったから」
「俺の?」
「そうだよ!」
「今も?」
「……」
言葉に詰まる。
星が。
こちらを見る。
陽向も。
こちらを見る。
「……今は」
私は。
小さく息を吸った。
「ファンでもあるけど」
陽向を見る。
「それより」
顔が。
熱い。
「彼氏として」
「好き」
陽向が。
固まる。
星も。
固まる。
「……」
「……」
「……」
何この沈黙。
最初に。
爆発したのは。
星だった。
「ママぁぁぁ!」
「何!?」
「私の前で言わないで!」
「聞いたのそっちでしょ!」
「推しとママの恋愛!」
「処理できない!」
陽向は。
両手で。
顔を覆っている。
「陽向までどうしたの」
「いや」
手の隙間から。
「俺」
「美月に」
「彼氏として好きって」
「人前で言われたの初めて」
「……」
「めっちゃ嬉しい」
「もうやだ!」
私は。
頭を抱えた。
◇◇◇
食事が。
運ばれてくる。
陽向は。
肉料理。
私は。
パスタ。
星は。
オムライス。
「いただきます」
三人。
揃って。
手を合わせる。
その瞬間。
私は。
少しだけ。
昔を思い出した。
家族で。
食卓を囲んだ日。
星が。
まだ。
小さかった頃。
「いただきます」
と。
大きな声で言って。
食べていた。
今。
隣には。
陽向。
向かいには。
星。
昔とは。
全然違う。
それでも。
また。
娘と。
同じテーブルで。
ご飯を食べている。
涙が。
出そうになった。
「ママ?」
「ん?」
星が。
すぐ気づく。
「泣く?」
「泣かない」
「本当に?」
「……ちょっと泣くかも」
陽向が。
何も言わず。
ティッシュを。
差し出してくる。
「ありがとう」
「うん」
星が。
私を見る。
「何で?」
「だって」
私は。
少し笑う。
「また星と」
「ご飯食べてるなって」
「……」
「それだけで」
胸が。
いっぱいになる。
星も。
少し。
目を潤ませた。
「私も」
「……うん」
「ママと」
お箸を置く。
「またこうして」
「ご飯食べられると思わなかった」
「うん」
「ずっと」
声が。
少し震える。
「もう二度と」
「できないと思ってた」
私は。
テーブルの下。
そっと。
星の手に。
触れた。
星が。
握り返してくれる。
「……ごめ」
言いかけて。
止まる。
星を見る。
「寂しかったね」
星の顔が。
崩れた。
「……うん」
それだけ。
何度も。
頷く。
「すごく」
「うん」
「ママがいなくなってから」
「うん」
「家」
声が。
小さくなる。
「変わった」
胸が。
ざわつく。
私は。
無意識に。
陽向を見る。
陽向も。
黙って。
聞く姿勢になる。
「どう変わったの?」
私は。
優しく。
聞いた。
星は。
少し。
迷った。
「みんな」
「普通にしようとしてた」
「……うん」
「パパも」
「弟たちも」
「……」
「でも」
オムライスを。
見つめる。
「普通じゃないんだよね」
「うん」
「ママの場所」
「ずっと空いてるし」
胸が。
痛い。
「弟たちも」
「たまに」
「ママって言うし」
「……」
「一番小さい子なんて」
星が。
唇を噛む。
「まだ」
「ママのこと」
「ちゃんと覚えてるのかなって」
涙が。
一気に。
溢れそうになる。
「……」
私は。
何も言えない。
他の子どもたち。
ずっと。
考えていた。
会いたい。
星だけじゃない。
全員。
抱きしめたい。
でも。
星に。
真実を話すだけでも。
あれほど怖かった。
他の子たちには?
年齢も。
受け止め方も。
違う。
「ママ」
星が。
私を見る。
「会いたい?」
質問の意味は。
分かっている。
弟たちに。
会いたい?
答えなんて。
最初から。
決まっている。
「……会いたい」
声が。
震える。
「すごく」
「じゃあ」
星が。
言う。
「会おうよ」
「……」
「でも」
反射的に。
言葉が出る。
「混乱するかもしれない」
「うん」
「信じてもらえないかも」
「うん」
「それに」
「パパにも」
胸が。
重くなる。
夫。
前の人生の。
家族。
私は。
今。
陽向を好きになっている。
その事実も。
いつか。
向き合わなければならない。
星が。
真っ直ぐ。
私を見る。
「ママ」
「何?」
「また」
「?」
「みんなのためにって」
「一人で決めようとしてる」
「……」
息が。
止まった。
陽向が。
横で。
小さく。
笑った。
「さすが娘」
「陽向」
「いや」
笑う。
「俺も同じこと言おうとした」
私は。
二人を見る。
「……似てる」
「何が?」
「私に言うこと」
二人が。
顔を見合わせる。
「だって」
星が言う。
「会いたいんでしょ?」
「……うん」
「弟たちだって」
「ママに会いたいと思う」
「……」
「信じるかどうかは」
星が。
続ける。
「会ってから」
「みんなが決めればいいじゃん」
胸の奥。
何かが。
大きく揺れる。
――私が決めるんじゃない。
そうだ。
星のときも。
私は。
混乱させるからと。
勝手に。
黙ろうとしていた。
でも。
星には。
星の気持ちがあった。
他の子どもたちにも。
同じ。
「……怖い」
私は。
正直に言った。
星が。
頷く。
「うん」
陽向も。
頷く。
「怖いよな」
「でも」
私は。
手を握る。
「会いたい」
「うん」
星が。
少し笑う。
「じゃあ」
「一人ずつでも」
「考えよう」
「……うん」
「私も」
胸を張る。
「手伝うから」
涙が。
一滴。
落ちた。
「ありがとう」
今度は。
素直に。
言えた。
◇◇◇
食事が。
終わるころ。
星が。
突然。
陽向を見る。
「あの」
「ん?」
陽向が。
少し。
緊張する。
「陽向くん」
「はい」
また。
敬語。
「一個」
星が。
真剣な顔になる。
「聞いていいですか?」
「……どうぞ」
私は。
嫌な予感。
何を。
聞くの?
星は。
陽向を。
まっすぐ見た。
「ママの」
「うん」
「どこが好きなんですか?」
「星!?」
「聞きたい!」
「聞かなくていい!」
陽向の顔が。
一気に。
赤くなる。
「えっと」
「答えなくていいから!」
「ママ黙って」
「娘に黙ってって言われた!」
星は。
完全に。
真剣。
「だって」
「私」
少し。
唇を尖らせる。
「ママが」
「また傷つくの嫌だから」
「……」
空気が。
変わった。
星。
きっと。
前の人生の私を。
見ていた。
私が。
我慢していたことも。
全部じゃなくても。
何となく。
感じていたのかもしれない。
「ちゃんと」
星が。
陽向を見る。
「大事にしてくれる人なのかなって」
陽向の表情から。
照れが。
消えた。
「……うん」
静かに。
頷く。
「大事にしたい」
星が。
じっと見る。
陽向も。
逃げない。
「美月」
私を見る。
「すぐ」
「自分より」
「他の人優先するし」
「……」
「何かあったら」
「自分が悪いって思うし」
「うん」
「一人で」
「いなくなろうとしたこともある」
星が。
私を見る。
「ママ」
「……はい」
少し。
怒られている気分。
陽向が。
続ける。
「だから」
「俺が」
「全部守るとか」
「そういうことは」
「言いたくない」
「……」
星が。
少し。
目を丸くする。
「美月は」
陽向が。
私のほうを見る。
「自分で立てる人だから」
胸が。
鳴る。
「でも」
「隣にはいたい」
「……」
「美月が」
「大丈夫じゃないって言ったら」
「一緒に考えたい」
「嬉しいって言ったら」
「一緒に喜びたい」
「……」
「美月の子どもたちも」
「大切にしたい」
星の目が。
揺れる。
「俺が」
「父親になるとか」
「そんな勝手なことじゃなくて」
「……」
「美月にとって」
「大切な人だから」
「俺も」
「大切にしたい」
もう。
私は。
泣いていた。
「陽向……」
「あと」
「まだあるの?」
陽向が。
少し。
照れた顔に戻る。
「笑うと」
「めちゃくちゃ可愛い」
「もういい!」
星が。
吹き出した。
「あははっ!」
「星まで!」
「だって急に!」
陽向も。
笑う。
私だけ。
顔が。
真っ赤。
「二人とも嫌い」
「え!」
陽向が。
大げさに。
ショックを受ける。
「今のはダメ!」
「何が?」
「彼氏に嫌いはダメ!」
「冗談!」
「じゃあ好き?」
「星の前で聞かないで!」
「また始まった」
星が。
笑っている。
私は。
恥ずかしくて。
でも。
嬉しくて。
胸が。
いっぱいだった。
◇◇◇
帰り。
店の前。
星とは。
途中で別れる。
「ママ」
「うん」
「今日」
「楽しかった」
「私も」
「また」
少し。
照れながら。
「三人でご飯しようね」
「うん」
「陽向くんも」
陽向を見る。
「はい」
「何で敬語なんですか?」
「いや」
陽向が。
頭を掻く。
「彼女の娘」
「やっぱ緊張する」
「ふふっ」
星が。
笑う。
そして。
少し。
真面目な顔になる。
「陽向くん」
「ん?」
「ママ」
「よろしくお願いします」
「……」
私は。
息を止めた。
陽向も。
驚いた顔。
でも。
すぐに。
優しく笑う。
「うん」
「こちらこそ」
そして。
少し考えて。
「星ちゃんも」
「?」
「美月のこと」
「これからも」
「いっぱい教えて」
星が。
笑った。
「任せてください」
「余計なことは教えないで!」
二人とも。
笑った。
「じゃあね、ママ」
その呼び方。
まだ。
聞くたび。
胸が。
いっぱいになる。
「うん」
私は。
笑う。
「またね、星」
星が。
少し歩いて。
振り返る。
手を振る。
私も。
手を振った。
娘が。
見えなくなるまで。
◇◇◇
帰りの車。
陽向が。
ハンドルを握りながら。
言った。
「よかったな」
「うん」
私は。
窓の外を見る。
「すごく」
「……」
「夢みたい」
「うん」
「でも」
少し。
笑う。
「次は」
「他の子たち」
陽向が。
静かに。
頷いた。
「怖い?」
「……怖い」
「うん」
「でも」
私は。
胸に手を当てる。
「会いたい」
「そっか」
「それに」
「うん」
「星が言ってくれたから」
私は。
少し笑った。
「信じるかどうかは」
「子どもたちが決めればいいって」
「うん」
「私は」
「会いたいっていう気持ちまで」
「勝手に我慢しなくていいのかなって」
陽向が。
嬉しそうに笑う。
「美月」
「何?」
「めちゃくちゃ変わったな」
「そう?」
「うん」
「昔なら」
「会いたいけど迷惑だからやめとく」
「って言ってそう」
「……言うと思う」
「だろ?」
二人で。
笑う。
赤信号。
車が止まる。
陽向が。
私を見る。
「美月」
「何?」
「今日」
「星ちゃんに」
「よろしくお願いしますって」
「言われた」
「うん」
「……めっちゃ緊張した」
「そこ?」
「だって」
少し。
照れた顔。
「なんか」
「ちゃんと」
「美月の彼氏として」
「認めてもらったみたいで」
胸が。
温かくなる。
「嬉しかった?」
「めっちゃ」
「そっか」
「うん」
そして。
陽向が。
小さく。
笑う。
「頑張ろ」
「何を?」
「美月の彼氏」
「……」
「これからも」
私は。
その横顔を見る。
好き。
やっぱり。
何度でも。
そう思う。
「うん」
私は。
笑った。
「よろしくお願いします」
「またそれ?」
「ふふっ」
私の二度目の人生は。
少しずつ。
一度目の人生と。
繋がり始めていた。
失ったと思っていた。
母親としての時間。
新しく見つけた。
恋人としての時間。
どちらかを。
選ばなくてもいい。
両方。
私の人生。
そして。
次に。
私が会いたいと願ったのは。
星だけではない。
あの日。
置いてきてしまった。
私の。
大切な。
子どもたちだった。
本当のことを話してから。
三日後。
私たちは。
とんでもなく。
気まずい食事会を。
開こうとしていた。
参加者。
私。
娘の星。
そして。
私の彼氏。
天城陽向。
「……」
私は。
個室のテーブルで。
一人。
頭を抱えていた。
情報だけ並べると。
本当に。
意味が分からない。
前の人生で。
娘と一緒に。
テレビで応援していた。
最推しアイドル。
その人が。
今。
私の彼氏。
そして。
今日。
娘に。
『ママの彼氏』として。
紹介する。
「……何この人生」
思わず。
呟く。
すると。
スマートフォンが震えた。
陽向。
『着いた』
続けて。
星。
『私も着いた』
「……二人同時」
嫌な予感しかしない。
私は。
二人へ。
同じメッセージを送った。
『個室だからそのまま来て』
数分後。
コンコン。
「はい」
ドアが。
ゆっくり開く。
最初に。
顔を出したのは。
星。
「……ママ」
「うん」
「緊張する」
「私も」
「帰っていい?」
「ダメ」
「だよね」
星が。
そろそろと。
部屋へ入ってくる。
その直後。
もう一度。
ノック。
「どうぞ」
今度は。
陽向。
帽子。
眼鏡。
マスク。
完全装備。
ドアを閉めてから。
全部外す。
「……お疲れ」
私が言う。
「お疲れ」
そして。
陽向が。
星を見る。
星も。
陽向を見る。
「……」
「……」
沈黙。
長い。
「えっと」
私が。
口を開く。
「二人とも」
「前に会ってるよね?」
「会ってる」
陽向。
「会ってます」
星。
「じゃあ」
私は。
無理やり笑う。
「今日は改めて」
一度。
息を吸う。
「娘の星です」
陽向が。
ものすごく。
真面目な顔になる。
「……はい」
「で」
私は。
今度は。
陽向を見る。
「彼氏の陽向です」
星が。
両手で。
顔を覆った。
「無理!」
「まだ何も始まってないよ!?」
「ママ!」
「何?」
「言葉にしないで!」
「何を?」
「彼氏の陽向ですって!」
陽向まで。
耳が。
真っ赤。
「俺もちょっと恥ずかしい」
「何で陽向まで!」
「だって」
陽向が。
星を指す。
「この子」
「俺のファンなんでしょ?」
星が。
勢いよく。
顔を上げる。
「はい!」
「返事だけ速い」
私が。
思わず言う。
「だって陽向くんに聞かれたから!」
「ママより返事いいじゃん」
「当たり前でしょ!」
「当たり前なんだ……」
すると。
陽向が。
急に。
胸を押さえた。
「待って」
「何?」
「俺」
ものすごく。
複雑そうな顔。
「彼女の娘から」
「陽向くんって呼ばれて」
「ファンですって言われて」
「でもその子の母親と付き合ってるんだよな?」
「そう」
「……情報量」
「多いでしょ?」
「多すぎ」
星も。
真顔で頷いた。
「私もです」
「星も?」
「推しが」
陽向を見る。
「ママの彼氏」
次に。
私を見る。
「しかもママは」
言葉を止める。
「……今、一ノ瀬紗良さんの見た目」
「うん」
「もう」
星が。
両手を広げる。
「意味分かんない!」
「私も!」
陽向が。
吹き出した。
「あはははっ!」
「笑わないでください!」
「ごめんごめん!」
でも。
陽向が笑ったことで。
少しだけ。
空気が。
柔らかくなった。
◇◇◇
「とりあえず」
私は。
メニューを開く。
「ご飯食べよ」
「賛成」
陽向が。
すぐに乗ってくる。
「星、何食べる?」
「……」
返事がない。
「星?」
見ると。
星は。
メニューではなく。
陽向を見ている。
「……本物」
「この前も言ってたよ」
「でも」
星が。
小声になる。
「今日は」
「?」
「ママの彼氏として」
陽向を見る。
「隣にいる……」
「……」
陽向が。
また。
顔を赤くする。
「星ちゃん」
「はい!」
「その」
咳払い。
「彼氏彼氏言うの」
「俺もまだ慣れてない」
「え?」
星が。
目を丸くする。
「陽向くんでも?」
「でもって何」
「だって」
少し。
照れながら。
「何でも余裕ありそうだから」
「ないない」
陽向が。
首を振る。
「美月相手だと」
「結構ない」
「ちょっと!」
私が。
止める。
星の視線が。
ゆっくり。
私に移る。
「……美月」
「あ」
陽向が。
口を押さえる。
遅い。
星は。
じっと。
陽向を見る。
「ママのこと」
「美月って呼んでるんですね」
「……はい」
なぜか。
陽向。
敬語。
「いつから?」
「星」
「何?」
「尋問しないで」
「だって気になる!」
陽向が。
少し笑う。
「最初は紗良って呼んでた」
「……」
星の表情が。
少し。
変わった。
「でも」
陽向は。
私を見る。
「今は」
「美月」
「……」
「俺が話してるのは」
「美月だから」
星が。
黙った。
私は。
少し。
恥ずかしくなる。
でも。
星の顔を見ると。
何か。
嬉しそうだった。
「……そっか」
小さな声。
「星?」
「ううん」
「何?」
「ちゃんと」
私を見る。
「ママのこと」
「ママとして」
「見てくれてるんだなって」
胸が。
温かくなる。
陽向は。
少し。
困ったように笑った。
「俺にとっては」
「高瀬美月だから」
「……」
「一ノ瀬紗良の身体でも」
「そこは」
「変わんない」
星の目に。
少しだけ。
涙が浮かんだ。
「ありがとう……ございます」
「え?」
「ママを」
星が。
少し笑う。
「見つけてくれて」
今度は。
陽向が。
何も言えなくなった。
私は。
胸が。
ぎゅっと。
締めつけられた。
見つけてくれた。
最初は。
信じてもらえなかった。
傷つけられたことも。
あった。
それでも。
最後には。
陽向は。
私を。
私として。
見つけてくれた。
「……俺のほうこそ」
陽向が。
少しだけ。
目を細める。
「美月のこと」
「いっぱい教えてくれて」
「ありがとう」
「私?」
「うん」
「星ちゃんが」
「昔の美月の話してくれるから」
私を見る。
「俺の知らない美月」
「知れる」
星が。
ぱっと。
顔を上げた。
「いっぱいあります!」
「星!」
嫌な予感。
「何?」
「何でも話さないでよ?」
「えー」
「何その反応」
陽向が。
すごく。
楽しそうに身を乗り出す。
「聞きたい」
「陽向!」
「昔の美月」
「聞きたい」
「聞かなくていい!」
「何で?」
「恥ずかしい!」
星が。
ニヤッとする。
「じゃあ」
「何?」
「ママが」
一度。
私を見る。
「陽向くんのライブ映像見ながら」
「ちょっと待って」
「『今日ビジュいい!』って」
「星!」
陽向が。
大笑いする。
「あはははっ!」
「やめて!」
「他にも」
「まだあるの!?」
「『この髪型好き』とか」
「星ー!」
「『今日めっちゃ可愛い』とか」
陽向が。
テーブルに。
突っ伏した。
肩が。
震えている。
「笑いすぎ!」
「いや」
顔を上げる。
ものすごく。
嬉しそう。
「嬉しい」
「……」
「昔から」
私を見る。
「そんな見てたんだ」
「……ファンだったから」
「俺の?」
「そうだよ!」
「今も?」
「……」
言葉に詰まる。
星が。
こちらを見る。
陽向も。
こちらを見る。
「……今は」
私は。
小さく息を吸った。
「ファンでもあるけど」
陽向を見る。
「それより」
顔が。
熱い。
「彼氏として」
「好き」
陽向が。
固まる。
星も。
固まる。
「……」
「……」
「……」
何この沈黙。
最初に。
爆発したのは。
星だった。
「ママぁぁぁ!」
「何!?」
「私の前で言わないで!」
「聞いたのそっちでしょ!」
「推しとママの恋愛!」
「処理できない!」
陽向は。
両手で。
顔を覆っている。
「陽向までどうしたの」
「いや」
手の隙間から。
「俺」
「美月に」
「彼氏として好きって」
「人前で言われたの初めて」
「……」
「めっちゃ嬉しい」
「もうやだ!」
私は。
頭を抱えた。
◇◇◇
食事が。
運ばれてくる。
陽向は。
肉料理。
私は。
パスタ。
星は。
オムライス。
「いただきます」
三人。
揃って。
手を合わせる。
その瞬間。
私は。
少しだけ。
昔を思い出した。
家族で。
食卓を囲んだ日。
星が。
まだ。
小さかった頃。
「いただきます」
と。
大きな声で言って。
食べていた。
今。
隣には。
陽向。
向かいには。
星。
昔とは。
全然違う。
それでも。
また。
娘と。
同じテーブルで。
ご飯を食べている。
涙が。
出そうになった。
「ママ?」
「ん?」
星が。
すぐ気づく。
「泣く?」
「泣かない」
「本当に?」
「……ちょっと泣くかも」
陽向が。
何も言わず。
ティッシュを。
差し出してくる。
「ありがとう」
「うん」
星が。
私を見る。
「何で?」
「だって」
私は。
少し笑う。
「また星と」
「ご飯食べてるなって」
「……」
「それだけで」
胸が。
いっぱいになる。
星も。
少し。
目を潤ませた。
「私も」
「……うん」
「ママと」
お箸を置く。
「またこうして」
「ご飯食べられると思わなかった」
「うん」
「ずっと」
声が。
少し震える。
「もう二度と」
「できないと思ってた」
私は。
テーブルの下。
そっと。
星の手に。
触れた。
星が。
握り返してくれる。
「……ごめ」
言いかけて。
止まる。
星を見る。
「寂しかったね」
星の顔が。
崩れた。
「……うん」
それだけ。
何度も。
頷く。
「すごく」
「うん」
「ママがいなくなってから」
「うん」
「家」
声が。
小さくなる。
「変わった」
胸が。
ざわつく。
私は。
無意識に。
陽向を見る。
陽向も。
黙って。
聞く姿勢になる。
「どう変わったの?」
私は。
優しく。
聞いた。
星は。
少し。
迷った。
「みんな」
「普通にしようとしてた」
「……うん」
「パパも」
「弟たちも」
「……」
「でも」
オムライスを。
見つめる。
「普通じゃないんだよね」
「うん」
「ママの場所」
「ずっと空いてるし」
胸が。
痛い。
「弟たちも」
「たまに」
「ママって言うし」
「……」
「一番小さい子なんて」
星が。
唇を噛む。
「まだ」
「ママのこと」
「ちゃんと覚えてるのかなって」
涙が。
一気に。
溢れそうになる。
「……」
私は。
何も言えない。
他の子どもたち。
ずっと。
考えていた。
会いたい。
星だけじゃない。
全員。
抱きしめたい。
でも。
星に。
真実を話すだけでも。
あれほど怖かった。
他の子たちには?
年齢も。
受け止め方も。
違う。
「ママ」
星が。
私を見る。
「会いたい?」
質問の意味は。
分かっている。
弟たちに。
会いたい?
答えなんて。
最初から。
決まっている。
「……会いたい」
声が。
震える。
「すごく」
「じゃあ」
星が。
言う。
「会おうよ」
「……」
「でも」
反射的に。
言葉が出る。
「混乱するかもしれない」
「うん」
「信じてもらえないかも」
「うん」
「それに」
「パパにも」
胸が。
重くなる。
夫。
前の人生の。
家族。
私は。
今。
陽向を好きになっている。
その事実も。
いつか。
向き合わなければならない。
星が。
真っ直ぐ。
私を見る。
「ママ」
「何?」
「また」
「?」
「みんなのためにって」
「一人で決めようとしてる」
「……」
息が。
止まった。
陽向が。
横で。
小さく。
笑った。
「さすが娘」
「陽向」
「いや」
笑う。
「俺も同じこと言おうとした」
私は。
二人を見る。
「……似てる」
「何が?」
「私に言うこと」
二人が。
顔を見合わせる。
「だって」
星が言う。
「会いたいんでしょ?」
「……うん」
「弟たちだって」
「ママに会いたいと思う」
「……」
「信じるかどうかは」
星が。
続ける。
「会ってから」
「みんなが決めればいいじゃん」
胸の奥。
何かが。
大きく揺れる。
――私が決めるんじゃない。
そうだ。
星のときも。
私は。
混乱させるからと。
勝手に。
黙ろうとしていた。
でも。
星には。
星の気持ちがあった。
他の子どもたちにも。
同じ。
「……怖い」
私は。
正直に言った。
星が。
頷く。
「うん」
陽向も。
頷く。
「怖いよな」
「でも」
私は。
手を握る。
「会いたい」
「うん」
星が。
少し笑う。
「じゃあ」
「一人ずつでも」
「考えよう」
「……うん」
「私も」
胸を張る。
「手伝うから」
涙が。
一滴。
落ちた。
「ありがとう」
今度は。
素直に。
言えた。
◇◇◇
食事が。
終わるころ。
星が。
突然。
陽向を見る。
「あの」
「ん?」
陽向が。
少し。
緊張する。
「陽向くん」
「はい」
また。
敬語。
「一個」
星が。
真剣な顔になる。
「聞いていいですか?」
「……どうぞ」
私は。
嫌な予感。
何を。
聞くの?
星は。
陽向を。
まっすぐ見た。
「ママの」
「うん」
「どこが好きなんですか?」
「星!?」
「聞きたい!」
「聞かなくていい!」
陽向の顔が。
一気に。
赤くなる。
「えっと」
「答えなくていいから!」
「ママ黙って」
「娘に黙ってって言われた!」
星は。
完全に。
真剣。
「だって」
「私」
少し。
唇を尖らせる。
「ママが」
「また傷つくの嫌だから」
「……」
空気が。
変わった。
星。
きっと。
前の人生の私を。
見ていた。
私が。
我慢していたことも。
全部じゃなくても。
何となく。
感じていたのかもしれない。
「ちゃんと」
星が。
陽向を見る。
「大事にしてくれる人なのかなって」
陽向の表情から。
照れが。
消えた。
「……うん」
静かに。
頷く。
「大事にしたい」
星が。
じっと見る。
陽向も。
逃げない。
「美月」
私を見る。
「すぐ」
「自分より」
「他の人優先するし」
「……」
「何かあったら」
「自分が悪いって思うし」
「うん」
「一人で」
「いなくなろうとしたこともある」
星が。
私を見る。
「ママ」
「……はい」
少し。
怒られている気分。
陽向が。
続ける。
「だから」
「俺が」
「全部守るとか」
「そういうことは」
「言いたくない」
「……」
星が。
少し。
目を丸くする。
「美月は」
陽向が。
私のほうを見る。
「自分で立てる人だから」
胸が。
鳴る。
「でも」
「隣にはいたい」
「……」
「美月が」
「大丈夫じゃないって言ったら」
「一緒に考えたい」
「嬉しいって言ったら」
「一緒に喜びたい」
「……」
「美月の子どもたちも」
「大切にしたい」
星の目が。
揺れる。
「俺が」
「父親になるとか」
「そんな勝手なことじゃなくて」
「……」
「美月にとって」
「大切な人だから」
「俺も」
「大切にしたい」
もう。
私は。
泣いていた。
「陽向……」
「あと」
「まだあるの?」
陽向が。
少し。
照れた顔に戻る。
「笑うと」
「めちゃくちゃ可愛い」
「もういい!」
星が。
吹き出した。
「あははっ!」
「星まで!」
「だって急に!」
陽向も。
笑う。
私だけ。
顔が。
真っ赤。
「二人とも嫌い」
「え!」
陽向が。
大げさに。
ショックを受ける。
「今のはダメ!」
「何が?」
「彼氏に嫌いはダメ!」
「冗談!」
「じゃあ好き?」
「星の前で聞かないで!」
「また始まった」
星が。
笑っている。
私は。
恥ずかしくて。
でも。
嬉しくて。
胸が。
いっぱいだった。
◇◇◇
帰り。
店の前。
星とは。
途中で別れる。
「ママ」
「うん」
「今日」
「楽しかった」
「私も」
「また」
少し。
照れながら。
「三人でご飯しようね」
「うん」
「陽向くんも」
陽向を見る。
「はい」
「何で敬語なんですか?」
「いや」
陽向が。
頭を掻く。
「彼女の娘」
「やっぱ緊張する」
「ふふっ」
星が。
笑う。
そして。
少し。
真面目な顔になる。
「陽向くん」
「ん?」
「ママ」
「よろしくお願いします」
「……」
私は。
息を止めた。
陽向も。
驚いた顔。
でも。
すぐに。
優しく笑う。
「うん」
「こちらこそ」
そして。
少し考えて。
「星ちゃんも」
「?」
「美月のこと」
「これからも」
「いっぱい教えて」
星が。
笑った。
「任せてください」
「余計なことは教えないで!」
二人とも。
笑った。
「じゃあね、ママ」
その呼び方。
まだ。
聞くたび。
胸が。
いっぱいになる。
「うん」
私は。
笑う。
「またね、星」
星が。
少し歩いて。
振り返る。
手を振る。
私も。
手を振った。
娘が。
見えなくなるまで。
◇◇◇
帰りの車。
陽向が。
ハンドルを握りながら。
言った。
「よかったな」
「うん」
私は。
窓の外を見る。
「すごく」
「……」
「夢みたい」
「うん」
「でも」
少し。
笑う。
「次は」
「他の子たち」
陽向が。
静かに。
頷いた。
「怖い?」
「……怖い」
「うん」
「でも」
私は。
胸に手を当てる。
「会いたい」
「そっか」
「それに」
「うん」
「星が言ってくれたから」
私は。
少し笑った。
「信じるかどうかは」
「子どもたちが決めればいいって」
「うん」
「私は」
「会いたいっていう気持ちまで」
「勝手に我慢しなくていいのかなって」
陽向が。
嬉しそうに笑う。
「美月」
「何?」
「めちゃくちゃ変わったな」
「そう?」
「うん」
「昔なら」
「会いたいけど迷惑だからやめとく」
「って言ってそう」
「……言うと思う」
「だろ?」
二人で。
笑う。
赤信号。
車が止まる。
陽向が。
私を見る。
「美月」
「何?」
「今日」
「星ちゃんに」
「よろしくお願いしますって」
「言われた」
「うん」
「……めっちゃ緊張した」
「そこ?」
「だって」
少し。
照れた顔。
「なんか」
「ちゃんと」
「美月の彼氏として」
「認めてもらったみたいで」
胸が。
温かくなる。
「嬉しかった?」
「めっちゃ」
「そっか」
「うん」
そして。
陽向が。
小さく。
笑う。
「頑張ろ」
「何を?」
「美月の彼氏」
「……」
「これからも」
私は。
その横顔を見る。
好き。
やっぱり。
何度でも。
そう思う。
「うん」
私は。
笑った。
「よろしくお願いします」
「またそれ?」
「ふふっ」
私の二度目の人生は。
少しずつ。
一度目の人生と。
繋がり始めていた。
失ったと思っていた。
母親としての時間。
新しく見つけた。
恋人としての時間。
どちらかを。
選ばなくてもいい。
両方。
私の人生。
そして。
次に。
私が会いたいと願ったのは。
星だけではない。
あの日。
置いてきてしまった。
私の。
大切な。
子どもたちだった。