目覚めたら、最推しの腕の中でした~1度終わった私の人生、もう一度恋をしました。~

第40話 ママに会いたい

翌日。

朝から。

私は。

何度も。

スマートフォンを見ていた。

夫から。

『子どもらに聞いてみる』

そう言われたから。

今日は。

きっと。

何か。

連絡が来る。

でも。

昼になっても。

来ない。

午後になっても。

来ない。

「……」

スマートフォンを置く。

五秒後。

また。

手に取る。

「来てない……」

分かってる。

子どもたちにとっては。

簡単な話じゃない。

亡くなったはずの母親が。

別の女性の身体で。

生きている。

そんなこと。

大人だって。

すぐには。

受け止められない。

それを。

子どもに。

どう説明するのか。

夫だって。

悩む。

それでも。

胸が。

落ち着かない。

もし。

会いたくない。

って。

言われたら?

怖い。

知らない女の人。

って。

言われたら?

それでも。

仕方ない。

そう。

思おうとして。

でも。

やっぱり。

苦しい。

「……会いたい」

私は。

小さく呟いた。

星だけじゃない。

みんなに。

会いたい。

◇◇◇

夕方。

インターホンが鳴った。

「はい」

ドアを開けると。

陽向。

「よ」

「……お疲れ」

「その顔」

「何?」

「今日ずっと待ってる顔」

図星。

私は。

少し。

口を尖らせた。

「分かる?」

「分かる」

陽向が。

靴を脱ぐ。

「連絡まだ?」

「うん」

「そっか」

リビングへ。

陽向は。

何も言わず。

私の隣に座った。

「仕事は?」

「終わった」

「疲れてない?」

「疲れてる」

「……珍しい」

「美月に」

少し笑う。

「疲れたって言えって」

「言われてるから」

胸が。

少し。

温かくなる。

「そっか」

「うん」

そして。

陽向が。

私を見る。

「美月は?」

「……」

少し迷う。

でも。

言う。

「不安」

「うん」

「会いたくないって」

「言われたらどうしようって」

「うん」

「でも」

私は。

膝の上で。

手を握る。

「それでも」

「子どもたちが」

「そう思うなら」

「受け止めなきゃって」

陽向が。

少し。

眉を下げる。

「また」

「何?」

「受け止めなきゃって」

「……」

「今」

「先に」

「傷つく準備してない?」

私は。

言葉に詰まった。

「……してるかも」

「美月」

「うん」

「まだ」

「何も言われてない」

「……うん」

「会いたいって」

「言ってくれるかもしれないじゃん」

「うん」

「だから」

陽向が。

私の手を取る。

「その返事が来てから」

「泣こう」

私は。

少し笑った。

「泣く前提?」

「どっちにしても」

「美月泣くでしょ」

「……否定できない」

陽向が。

笑う。

その瞬間。

スマートフォンが。

震えた。

二人。

同時に。

見る。

夫。

「……来た」

手が。

震える。

陽向は。

何も言わない。

ただ。

私の手を。

握ったまま。

私は。

メッセージを開いた。

『話した』

その下。

少し。

間を空けて。

『全員いっぺんには無理やと思う』

「……」

胸が。

ぎゅっとなる。

続き。

『でも』

指が。

止まる。

『上の子が、会いたいって言っとる』

「……っ」

涙が。

一気に。

溢れた。

「美月」

「会いたいって」

「うん」

「言ってくれた」

陽向が。

笑う。

「よかったな」

「うん……」

まだ。

続きがある。

『本当にママなら、聞きたいことがあるらしい』

私は。

涙を拭う。

『会わせてほしい』

送る。

少しして。

返信。

『明日でもええ?』

「……明日」

陽向を見る。

「明日会える」

「うん」

「どうしよう」

「どうしたい?」

その聞き方。

私は。

少し笑った。

「会いたい」

「じゃあ」

陽向も。

笑う。

「会おう」

◇◇◇

翌日。

待ち合わせ場所へ。

向かう途中。

私は。

何度も。

鏡を見た。

髪。

変じゃない。

服も。

派手すぎない。

でも。

「……何してるんだろ」

どんな格好をしたって。

この顔は。

高瀬美月じゃない。

それでも。

今日は。

少しでも。

『お母さん』らしく。

見えたかった。

自分でも。

変だと思う。

「……大丈夫」

言ってから。

すぐ。

首を振る。

「緊張してる」

今日も。

ちゃんと。

言い直せた。

◇◇◇

指定された場所。

夫が。

先に来ていた。

その隣。

少し。

離れて。

一人の子。

「……」

息が。

止まった。

大きくなった。

それが。

最初に。

浮かんだ。

私が。

最後に見たときより。

少し。

背が伸びている。

顔つきも。

変わっている。

でも。

私には。

分かる。

私の子。

「……」

足が。

動かない。

夫が。

こちらに気づく。

そして。

隣の子へ。

何か。

小さく言った。

その子が。

ゆっくり。

私を見る。

警戒。

戸惑い。

その目。

胸が。

痛む。

でも。

当然。

私は。

一歩。

近づいた。

「……こんにちは」

何て。

おかしい。

自分の子に。

こんにちは。

それでも。

今は。

それしか。

言えない。

「……こんにちは」

返事。

してくれた。

それだけで。

泣きそうになる。

「座ろか」

夫が。

言う。

三人で。

静かな席へ。

◇◇◇

「パパから」

その子が。

先に。

口を開いた。

「聞いた」

「……うん」

「この人が」

私を見る。

「ママかもしれんって」

「うん」

「でも」

「……」

「顔」

まっすぐ。

言われる。

「全然違う」

「うん」

「声も」

「うん」

「ママじゃない」

胸が。

痛い。

でも。

私は。

頷いた。

「そう見えるよね」

「……」

「私でも」

自分の手を見る。

「最初」

「鏡見て」

「誰って思ったから」

その子が。

少し。

眉を寄せる。

「じゃあ」

「うん」

「どうやって」

「ママだって」

「分かるの?」

質問。

来ると思っていた。

私は。

一度。

息を吸う。

「何でも」

「聞いていいよ」

「……」

「分かることなら」

「答える」

少し。

考えて。

その子が。

聞いた。

「僕が」

言葉が。

止まる。

「初めて」

「学校行きたくないって」

「言ったとき」

胸が。

揺れた。

覚えてる。

もちろん。

「ママ」

「何て言った?」

私は。

その日のことを。

思い出す。

朝。

ランドセル。

玄関。

泣きそうな顔。

「……無理に」

ゆっくり。

答える。

「行けとは」

「言わなかった」

その子の目が。

少し動く。

「まず」

「何が嫌なのって」

「聞いた」

「……」

「それで」

私は。

少し笑う。

「理由」

「すぐには」

「言わなかったよね」

「……」

「だから」

「今日は」

「玄関まで行って」

「それでも無理だったら」

「戻ってきてもいいよって」

「言った」

その子が。

黙る。

夫が。

私を見る。

「それ」

夫も。

知らないらしい。

「でも」

その子が。

まだ。

納得していない顔。

「そのあと」

「……うん」

「僕」

「何て言った?」

私は。

すぐに。

答えた。

「『ママも一緒なら行く』」

「……」

「だから」

涙が。

滲む。

「途中まで」

「一緒に歩いた」

その子の目が。

大きくなる。

「学校の前までじゃないよ」

私は。

少し笑った。

「見られたら恥ずかしいって」

「途中で」

「帰ってって言われたから」

「……」

その子の。

唇が。

少し震えた。

「それ」

「誰にも」

「言ってない」

「うん」

「パパも」

知らない。

横で。

夫が。

静かに。

首を振る。

「……何で」

その子が。

私を見る。

「知ってるの?」

もう。

答えは。

一つ。

「ママだから」

声が。

震える。

「……」

「信じられないと思う」

私は。

涙を拭う。

「でも」

「私」

「ずっと」

「会いたかった」

「……」

「ごめん」

また。

言いかける。

違う。

「寂しかったよね」

その子の。

表情が。

一瞬で。

崩れた。

「……」

下を向く。

肩が。

震えている。

私は。

手を伸ばしたくなる。

でも。

止める。

まだ。

勝手に。

触っちゃいけない。

「……ママ」

小さな。

声。

息が。

止まる。

「何で」

その子が。

顔を上げた。

泣いている。

「何で」

「帰ってこなかったの」

胸が。

引き裂かれる。

「帰りたかった」

「じゃあ!」

声が。

大きくなる。

「帰ってくればよかったやん!」

「うん」

「ずっと」

涙が。

ぼろぼろ。

落ちる。

「ママ死んだって」

「言われて」

「……」

「もう」

「会えんって」

「うん」

「僕」

「……」

「いっぱい」

その先が。

言えない。

私は。

もう。

我慢できなかった。

でも。

それでも。

聞く。

「抱きしめてもいい?」

その子が。

一瞬。

止まる。

そして。

泣きながら。

頷いた。

次の瞬間。

私は。

抱きしめた。

「……っ」

小さくない。

前より。

大きくなった身体。

でも。

私には。

分かる。

何度も。

抱きしめてきた。

私の子。

「ごめ……」

また。

謝りそうになる。

違う。

私は。

背中を。

何度も撫でた。

「会いたかった」

「……」

「ずっと」

「会いたかったよ」

「……ママ」

「うん」

「ほんまに?」

「うん」

「ほんまにママ?」

「うん」

私は。

泣きながら。

笑う。

「ママだよ」

その子の手が。

私の服を。

ぎゅっと。

掴んだ。

「……ママ」

今度は。

はっきり。

呼ばれた。

胸が。

いっぱいになった。

「うん」

「ここにいるよ」

◇◇◇

しばらく。

誰も。

話さなかった。

夫も。

少し離れたところで。

顔を。

背けていた。

きっと。

泣いている。

その子が。

少し。

落ち着いてから。

私から。

身体を離した。

でも。

手は。

私の服を。

まだ。

掴んでいる。

「……変な感じ」

「うん」

「ママの顔じゃない」

「うん」

「でも」

私を見る。

「ママっぽい」

思わず。

笑った。

「星も」

「同じこと言ってた」

「姉ちゃんも?」

「うん」

「もう」

「ママって」

「呼んでくれてる」

その子が。

少し。

安心したような顔をした。

「そっか」

「うん」

「じゃあ」

少し。

迷う。

「僕も」

「……」

「ママって」

「呼んでいい?」

涙が。

また。

溢れた。

「当たり前でしょ」

「……」

「何回でも」

笑う。

「呼んで」

「……ママ」

「うん」

「ママ」

「うん」

何回でも。

返事をした。

そのたび。

失ったと思っていた時間が。

少しずつ。

戻ってくるようだった。

◇◇◇

帰り際。

その子が。

少し。

言いにくそうに。

言った。

「他の子ら」

「うん」

「まだ」

「怖いって」

胸が。

少し。

痛む。

「そっか」

「でも」

「……」

「僕が」

少し。

恥ずかしそうに。

言う。

「話す」

「え?」

「会ってみたら」

「分かるって」

「……」

涙が。

また。

出そうになる。

「無理しなくていいよ」

私は。

すぐに言った。

「説得しなくていい」

「……」

「会いたいって」

「思ったときに」

「会ってくれたらいいから」

その子が。

私を見る。

そして。

少し笑った。

「ママ」

「何?」

「前より」

「何?」

「ちょっと」

考える。

「優しくなった?」

「え?」

夫が。

横で。

少しだけ。

笑った。

「そこは」

「前からやろ」

「えー」

「何その反応!」

久しぶりに。

三人で。

少し。

笑った。

◇◇◇

夜。

陽向が。

私の部屋に来た。

玄関を開けた瞬間。

私の顔を見て。

「会えた?」

私は。

泣きながら。

笑った。

「うん」

「ママって?」

「……呼んでくれた」

陽向が。

大きく。

息を吐いた。

そして。

笑う。

「よかったな」

「うん」

私は。

その胸へ。

抱きついた。

「今日」

「うん」

「いっぱい」

「ママって呼ばれた」

「うん」

「何回聞いても」

「泣きそうになった」

「うん」

「それでね」

顔を上げる。

「他の子たちにも」

「会ってみたら分かるって」

「話してくれるって」

「……そっか」

「でも」

私は。

首を振る。

「急がなくていいって」

「言えた」

陽向が。

少し。

目を細める。

「美月」

「何?」

「それ」

「すごいじゃん」

「何が?」

「前なら」

「みんなに会わなきゃ」

「ちゃんと分かってもらわなきゃって」

「一人で」

「焦ってたと思う」

「……そうかも」

「でも今」

「子どもたちの気持ちも」

「待ててる」

私は。

少し。

笑った。

「成長した?」

「した」

「何点?」

「二百点」

「また増えてる」

陽向が。

笑う。

◇◇◇

その夜。

夫から。

一通。

メッセージが来た。

『今日会った子が、下の子らに話してる』

続けて。

『一人、会ってみたいって言い出した』

「……」

胸が。

大きく鳴る。

また。

会える。

もう一人。

大切な。

私の子に。

私は。

スマートフォンを。

胸に抱いた。

一人ずつ。

少しずつ。

私の。

一度目の人生が。

今の私へ。

戻ってきている。

いや。

戻るんじゃない。

繋がっていく。

星。

今日会えた子。

そして。

まだ。

会えていない子どもたち。

焦らなくていい。

一人ずつ。

それぞれの気持ちで。

私を。

見つけてもらえたらいい。

そのたびに。

私は。

何度でも。

伝えよう。

顔が違っても。

声が違っても。

――ママは。

――ずっと、あなたたちが大好きだよ。
< 40 / 60 >

この作品をシェア

pagetop