目覚めたら、最推しの腕の中でした~1度終わった私の人生、もう一度恋をしました。~

第48話 幸せになる準備を、始めよう

陽向が。

ひそかに。

プロポーズについて。

考え始めていることなんて。

私は。

もちろん。

知らなかった。

だから。

その日。

事務所に呼ばれて。

告げられた言葉に。

頭が。

いっぱいになっていた。

「主演……ですか?」

「はい」

担当者が。

笑う。

「連続ドラマの」

「主演オファーです」

「……」

私は。

手元の資料を見る。

一ノ瀬紗良。

主演。

その文字。

事故のあと。

仕事に戻って。

少しずつ。

現場にも。

慣れてきた。

以前より。

演技が。

変わったと。

言われることも。

増えた。

でも。

主演。

作品の。

真ん中に立つ。

その責任。

「私に……」

言いかけて。

止まる。

――私にできるかな。

以前なら。

きっと。

そう言った。

でも。

今は。

少しだけ。

違う。

「やりたいです」

担当者が。

一瞬。

目を丸くした。

私自身も。

少し驚いた。

でも。

もう一度。

言う。

「やりたいです」

「……即答ですね」

「はい」

私は。

資料を見る。

今回の役は。

家庭を持ちながら。

ずっと。

自分の夢を。

諦めてきた女性。

ある出来事をきっかけに。

もう一度。

自分の人生を。

選び直していく。

そんな。

物語。

あまりにも。

今の私に。

近い。

「この役」

「うん?」

「演じたいです」

胸が。

熱くなる。

「すごく」

◇◇◇

夜。

陽向に。

伝えると。

予想通り。

「主演!?」

声が。

大きい。

「そう」

「マジ!?」

「うん」

「すごいじゃん!」

勢いよく。

両肩を。

掴まれる。

「美月!」

「近い近い」

「おめでとう!」

「ありがとう」

「やったな!」

自分のことみたいに。

喜ぶ。

その顔を見て。

胸が。

温かくなる。

「まだ」

「正式に」

「全部決まったわけじゃないけど」

「でも」

「やりたいんだろ?」

「うん」

「じゃあ」

陽向が。

笑う。

「やろ」

「簡単に言うね」

「だって」

「美月がやりたいって」

「言ったんでしょ?」

「……」

その言い方。

嬉しい。

私が。

やりたい。

それを。

理由にしていい。

「ねえ」

「ん?」

「前の私だったら」

「うん」

「主演なんて」

少し笑う。

「子どもたちに」

「迷惑かかるかなとか」

「忙しくなったら」

「会えなくなるかなとか」

「考えて」

「断ってたかもしれない」

陽向が。

少し。

真面目な顔になる。

「今は?」

「考えたよ」

「うん」

「でも」

私は。

胸に手を置く。

「それでも」

「やりたいって」

「思った」

陽向が。

ゆっくり。

笑った。

「それでいいじゃん」

「うん」

「子どもたちに会う方法は」

「あとで考えればいい」

「うん」

「仕事も」

「母親も」

「恋愛も」

指を。

三本立てる。

「全部やろ」

私は。

吹き出した。

「欲張りじゃない?」

「いいじゃん」

陽向が。

笑う。

「二回目の人生なんだから」

一瞬。

胸が。

止まる。

でも。

嫌じゃない。

「そっか」

私は。

笑った。

「欲張っていいのか」

「むしろ」

「今まで」

「我慢しすぎ」

そう言われて。

少し。

泣きそうになった。

◇◇◇

その週末。

子どもたちと。

会う日。

今度は。

全員ではなく。

来られる子だけ。

星と。

何人か。

そして。

一番小さい子。

私の顔を見るなり。

「ママ!」

と。

走ってくる。

「はいはい」

私は。

しゃがんで。

受け止める。

「ゲーム持ってきた!」

「今日は」

「ずっとゲームしないよ」

「なんで!」

「外も行くから」

「やだ!」

「やだじゃない」

星が。

横で。

笑う。

「ママ」

「何?」

「もう完全に」

「普通のママに戻ってる」

「戻ったんじゃないよ」

私は。

少し。

笑う。

「今のママ」

「……そっか」

星も。

笑った。

◇◇◇

みんなで。

お昼を食べていると。

星が。

聞いた。

「ママ」

「何?」

「仕事」

「忙しくなるの?」

「え?」

「この前」

「事務所で」

「大きい話あるって」

「言ってたじゃん」

「ああ」

私は。

少し。

迷った。

まだ。

正式発表前。

でも。

家族には。

言ってもいい。

「ドラマの」

「主演の話が来てる」

「え!?」

星の声が。

ひっくり返る。

「主演!?」

「まだ」

「最終決定前だけどね」

「すご!」

他の子も。

「テレビ出るん?」

「毎週?」

「ママが?」

一気に。

質問。

私は。

笑う。

「そうなるかも」

すると。

一人が。

少し。

不安そうに。

聞いた。

「忙しくなったら」

「会えん?」

胸が。

きゅっと。

なる。

前なら。

この一言で。

仕事を。

やめようとしたかもしれない。

でも。

今は。

違う。

私は。

その子を見る。

「会う回数が」

「少なくなる週は」

「あるかもしれない」

「……」

「でも」

「会えなくなるわけじゃない」

「ほんま?」

「うん」

「ママ」

私は。

笑った。

「仕事もしたい」

「……」

「でも」

「みんなにも」

「会いたい」

「……」

「だから」

「どうしたら」

「両方できるか」

「一緒に考える」

星が。

少し。

嬉しそうに。

私を見る。

「ママ」

「何?」

「前なら」

「仕事やめるって」

「言いそう」

「……」

図星。

「言うかも」

「でしょ」

星が。

笑う。

「でも」

「今のママ」

「いいと思う」

「……」

「仕事してるママも」

「かっこいいし」

胸が。

じんわり。

熱くなる。

「ありがとう」

すると。

一番小さい子が。

口いっぱいに。

ご飯を入れながら。

「ママ」

「飲み込んでから喋る」

ごくん。

「テレビでたら」

「ぼく見る」

「ほんと?」

「ゲームしながら」

「ちゃんと見て!」

「えー」

みんなが。

笑った。

◇◇◇

帰り。

星が。

少しだけ。

私を。

呼び止めた。

「ママ」

「何?」

「一個」

「聞いていい?」

「うん」

「陽向くんと」

その名前が。

出た瞬間。

少し。

顔が熱くなる。

「どうしたの?」

「結婚とか」

「……」

固まった。

「何で!?」

星が。

目を丸くする。

「そんな驚く?」

「驚くよ!」

「だって」

星が。

少し。

にやっとする。

「付き合ってるんでしょ?」

「うん」

「ずっと一緒にいたいんでしょ?」

「……」

「じゃあ」

「考えないの?」

私は。

言葉に詰まった。

数日前。

陽向と。

話した。

もし。

結婚するとしたら。

戸籍では。

一ノ瀬紗良。

でも。

プロポーズされるなら。

高瀬美月として。

してほしい。

あれは。

ただの。

仮定。

そのはず。

「……まだ」

私は。

少し。

笑う。

「分かんない」

「ふーん」

星が。

私を見る。

「したい?」

「え?」

「ママは」

「陽向くんと」

「結婚したい?」

真っ直ぐ。

聞かれる。

私は。

少し。

考える。

結婚。

一度目の人生で。

経験した。

嬉しかったことも。

苦しかったことも。

あった。

家族になれば。

全部。

うまくいくわけじゃない。

結婚したから。

安心できるわけでも。

幸せになれるわけでも。

ない。

それを。

私は。

知っている。

でも。

陽向とは。

「……したいかも」

言ってから。

自分で。

驚いた。

星が。

ぱっと笑う。

「そっか」

「でも!」

「うん」

「今すぐじゃないよ!」

「分かってるって」

「仕事もあるし」

「うん」

「子どもたちのことも」

「うん」

「まだ」

「いろいろ」

星が。

少し。

呆れた顔。

「ママ」

「何?」

「また」

「条件いっぱい並べてる」

「……」

「結婚したいか」

「聞いただけ」

言葉が。

止まる。

「……したい」

今度は。

もう少し。

はっきり。

言えた。

星が。

嬉しそうに笑う。

「じゃあ」

「それでいいじゃん」

胸が。

温かくなった。

◇◇◇

その夜。

陽向から。

電話。

『今日どうだった?』

「楽しかったよ」

『子どもたち?』

「うん」

「主演の話も」

「した」

『え』

少し。

緊張した声。

『どうだった?』

「応援してくれた」

『マジ?』

「うん」

「忙しくなったら」

「会えなくなるのって」

「心配してた子もいたけど」

『うん』

「ちゃんと」

「両方やりたいって」

「言った」

電話の向こう。

少し。

沈黙。

『美月』

「何?」

『かっこいい』

「……」

急に。

「何それ」

『いや』

『マジで』

「やめて」

『照れてる?』

「照れてない」

『絶対照れてる』

「切るよ」

『ごめん!』

笑う。

そして。

少しして。

陽向が。

聞いた。

『ほかに』

『何か話した?』

心臓が。

跳ねた。

星との。

会話。

結婚。

したいかも。

言う?

いや。

無理。

「……別に」

『怪しい』

「何が?」

『今の間』

「何でもない」

『美月』

「何」

『俺に』

『隠し事?』

「隠し事じゃない!」

『じゃあ何?』

「言わない!」

『気になる!』

私は。

顔を。

手で覆った。

絶対。

言えない。

今。

『陽向と結婚したいかも』

なんて。

言ったら。

この人。

どうなるか。

想像できる。

「また今度」

『えー!』

「おやすみ」

『待って!』

「おやすみ、陽向」

『美月!』

私は。

笑いながら。

電話を切った。

◇◇◇

同じころ。

陽向は。

スマートフォンを。

見つめていた。

「……絶対」

「何かある」

でも。

それ以上に。

気になっていることが。

あった。

プロポーズ。

どうするか。

指輪。

場所。

タイミング。

でも。

考えれば。

考えるほど。

一つ。

引っかかる。

美月には。

五人の子どもがいる。

自分だけで。

決めて。

自分だけで。

連れていくような。

プロポーズには。

したくない。

結婚しても。

美月は。

子どもたちの母親。

それは。

絶対。

変わらない。

だったら。

「……」

陽向は。

考えた。

そして。

スマートフォンを。

開く。

連絡先。

星。

以前。

美月を通して。

交換していた。

一度。

指が。

止まる。

「……いや」

「緊張する」

トップアイドルが。

娘に。

母親への。

プロポーズ相談。

どう考えても。

おかしい。

でも。

美月が。

ずっと。

言ってきた。

一人で。

決めない。

正解より。

一緒に。

考える。

陽向は。

大きく。

息を吸った。

そして。

星へ。

メッセージを。

送った。

『星ちゃん、ちょっと相談していい?』

数分後。

返信。

『いいですよ』

さらに。

『ママのこと?』

「……鋭」

陽向は。

苦笑した。

そして。

ゆっくり。

打つ。

『うん』

一度。

消す。

また。

打つ。

『俺、美月に』

そこで。

手が。

止まる。

心臓。

速い。

そして。

意を決して。

続きを。

送った。

『いつか、プロポーズしたいと思ってる』

送信。

「……送った」

陽向は。

両手で。

顔を覆った。

数秒。

返信。

『やっぱり』

「……」

陽向。

固まる。

『やっぱりって何!?』

すぐ。

打つ。

返事。

『だって分かりやすいです(笑)』

「美月の娘!」

陽向は。

頭を抱えた。

でも。

次に届いた。

メッセージで。

表情が。

変わった。

『私、応援します』

そして。

もう一通。

『でも一個だけ、お願いがあります』

陽向の指が。

止まる。

『何?』

少しして。

届く。

『ママに』

『「家族か、陽向くんか」を選ばせるような結婚にはしないでください』

陽向は。

じっと。

その文字を。

見た。

星は。

続ける。

『ママ、昔から』

『誰かを幸せにするために』

『自分が我慢する癖があるから』

『結婚したら、また自分のこと後回しにするのだけは嫌です』

胸に。

強く。

響いた。

陽向は。

ゆっくり。

返信した。

『しない』

迷いは。

なかった。

『美月に何か捨ててもらって』

『俺を選んでもらいたいわけじゃない』

さらに。

『俺と一緒にいることで』

『美月が今より幸せになれるようにしたい』

しばらく。

返信は。

来なかった。

そして。

『じゃあ』

『陽向くんでいいと思います』

陽向が。

目を丸くする。

「……何その」

「娘の許可みたいな」

でも。

口元は。

笑っていた。

次の一文。

『ママのこと、お願いします』

陽向は。

以前。

星から。

同じ言葉を。

言われたことを。

思い出す。

今度は。

もっと。

重い。

もっと。

未来に。

繋がる言葉。

『うん』

陽向は。

送った。

『大事にする』

そして。

少し考える。

『でも』

『星ちゃんたちと』

『美月の関係も』

『今のまま大事にしたい』

すぐ。

返信。

『それなら合格です』

「また審査!」

陽向は。

笑った。

◇◇◇

私は。

そんなやり取りが。

行われていることも。

知らず。

翌朝。

主演ドラマの。

正式決定の。

連絡を受けていた。

『一ノ瀬紗良さん主演で正式決定しました』

その名前。

一ノ瀬紗良。

私は。

一瞬だけ。

目を閉じる。

そして。

鏡を見る。

「……美月」

小さく。

自分の名前を。

呼ぶ。

一ノ瀬紗良として。

仕事をする。

高瀬美月として。

生きる。

どちらも。

今の私。

「よし」

私は。

笑った。

仕事も。

子どもたちも。

陽向も。

何かを。

選んだから。

何かを。

捨てる人生じゃない。

私は。

全部。

大切にしたい。

全部。

抱えて。

進みたい。

それを。

欲張りだと。

言われてもいい。

だって。

一度目の人生で。

私は。

自分の幸せを。

後回しにしすぎた。

だから。

二度目くらい。

いいでしょう?

母親として。

女優として。

一人の女性として。

そして。

大好きな人の。

恋人として。

私は。

幸せになる。

その準備を。

ようやく。

始められた気がした。

そして。

そのころ。

私の知らないところでは。

陽向と。

私の娘が。

ひそかに。

人生最大の。

計画を。

始めようとしていた。
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