目覚めたら、最推しの腕の中でした~1度終わった私の人生、もう一度恋をしました。~

第49話 娘と彼氏が、何か企んでいます

主演ドラマが。

正式に決まってから。

私の毎日は。

一気に。

忙しくなった。

台本。

衣装合わせ。

監督との打ち合わせ。

番宣の予定。

撮影スケジュール。

そして。

子どもたちと会う日。

陽向と過ごす時間。

全部。

大切。

だからこそ。

最近。

手帳が。

すごいことになっている。

「……ここ撮影」

私は。

テーブルの上に。

手帳を広げる。

「ここ取材」

その次。

「ここ、子どもたち」

そして。

少し。

間を空けて。

ピンクのペンで。

小さく書く。

『陽向』

「……」

書いたあとで。

なんとなく。

恥ずかしくなる。

「何やってるんだろ、私」

でも。

消さない。

だって。

会いたいから。

そのとき。

スマートフォンが。

震えた。

陽向。

『今日何時終わる?』

『たぶん20時くらい』

すぐに。

返事。

『じゃあ会える?』

私は。

思わず。

笑った。

『明日朝早くないの?』

『早い』

『じゃあ寝なよ』

『美月に会ってから寝る』

「……」

可愛い。

いや。

三十四歳の男性に。

可愛いって。

どうなんだろう。

でも。

可愛い。

『少しだけなら』

送る。

すぐ。

『やった!』

本当に。

分かりやすい。

◇◇◇

そのころ。

私の知らないところで。

陽向は。

とんでもなく。

真剣な顔で。

ジュエリーショップの。

ショーケースを。

見つめていた。

「……分からん」

隣で。

星が。

ため息をつく。

「何がですか?」

「全部」

「全部?」

「指輪って」

陽向が。

小声で言う。

「種類多すぎない?」

「まあ」

「これとこれ」

「何が違うの?」

「デザイン」

「それは見れば分かる!」

「じゃあ聞かないでください」

「冷たい!」

星は。

笑いを。

堪えていた。

トップアイドル。

天城陽向。

テレビでは。

何でも器用に。

こなして。

ファッション誌では。

ジュエリーも。

何度も身につけている。

なのに。

今。

人生で一番。

困っている。

「ママ」

星が。

ショーケースを見ながら。

言う。

「こういうの」

「派手なのより」

「シンプルなのが好きだと思います」

「やっぱ?」

「うん」

「でも」

陽向が。

眉を寄せる。

「せっかくなら」

「美月に似合うやつ」

「ちゃんと選びたい」

「それはそうだけど」

「俺」

真剣。

「一生つけてほしいし」

星が。

ぴたりと。

止まる。

そして。

陽向を見る。

「……本気ですね」

「何が?」

「ママとの結婚」

「……」

陽向の顔が。

少し。

赤くなる。

「本気じゃなきゃ」

「こんなことしないでしょ」

「ですよね」

星は。

少しだけ。

嬉しそうに。

笑った。

◇◇◇

「サイズ」

店員から。

聞かれて。

陽向は。

完全に。

固まった。

「……サイズ?」

星も。

固まる。

「知らないんですか?」

「知らないよ!」

「彼氏なのに?」

「普通」

「彼女の薬指のサイズ」

「知ってる!?」

「知らないかも」

「だろ!?」

二人。

小声で。

揉める。

店員が。

柔らかく。

笑っている。

「後からサイズ調整が可能なものもございますよ」

「それ!」

陽向が。

勢いよく。

振り返る。

「それがいいです!」

星が。

顔を覆う。

「陽向くん」

「何?」

「もうちょっと」

「落ち着いてください」

「無理」

「ライブ前より?」

「緊張してる」

「まだ買うだけなのに」

「買うだけじゃない!」

陽向が。

真剣に言う。

「これ」

「美月に渡すんだぞ?」

「……」

星の表情が。

少し。

柔らかくなる。

「そっか」

「うん」

「じゃあ」

星が。

一つのリングを。

指差した。

「これ」

「ん?」

細い。

上品なデザイン。

中央に。

小さく。

輝く石。

派手すぎない。

でも。

光が当たると。

ちゃんと。

存在感がある。

「ママっぽい」

陽向が。

じっと。

見る。

「どこが?」

「一見」

星が。

少し笑う。

「そんなに目立とうとしないけど」

「……」

「ちゃんと見ると」

リングを見る。

「すごく綺麗」

陽向が。

黙った。

その言葉。

まるで。

自分が。

美月に。

感じていること。

そのものだった。

「……これ」

「うん?」

「好き」

星が。

笑った。

「じゃあ」

「候補ですね」

◇◇◇

私は。

そんなこと。

何も知らず。

撮影現場で。

神崎悠人と。

向かい合っていた。

「じゃあ」

監督の声。

「本番いきます」

「はい」

今回のドラマで。

神崎は。

私の相手役。

偶然。

また。

一緒になった。

台本の中。

私が演じる女性は。

長い結婚生活を経て。

自分を。

見失っている。

神崎が演じるのは。

その女性に。

もう一度。

自分の人生を。

考えるきっかけを。

与える人物。

恋愛。

だけではない。

自分は。

何が好きなのか。

何をしたいのか。

そう。

問いかける人。

「……あなたは」

神崎が。

役として。

私を見る。

「誰のために」

「生きてるんですか」

そのセリフ。

胸の奥に。

刺さった。

一瞬。

昔の自分が。

浮かぶ。

子ども。

夫。

家族。

みんなのため。

その言葉を。

何度。

使っただろう。

でも。

今なら。

答えられる。

私は。

役の女性として。

少し。

震えながら。

言った。

「……私も」

「その中に」

「入れていいですか」

静かになった。

監督が。

カットを。

言わない。

私は。

続ける。

「誰かのために」

「生きることを」

「やめたいわけじゃない」

「……」

「でも」

涙が。

頬を伝う。

「その誰かの中に」

胸へ。

手を当てる。

「自分も」

「入れてあげたいんです」

「……」

しばらく。

静寂。

そして。

「カット!」

監督が。

声を上げる。

「いい!」

現場の空気が。

ほどける。

私は。

息を吐いた。

神崎が。

少し笑う。

「今の」

「紗良さんじゃないでしょ」

心臓が。

一瞬。

跳ねた。

「……え?」

神崎は。

すぐに。

続ける。

「台本より」

「ずっと」

「本音っぽかったから」

「あ……」

そういう意味。

私は。

少し。

安心する。

「そうかも」

「最近」

神崎が。

私を見る。

「本当に」

「変わったよね」

「……」

「事故前より」

少し。

考える。

「自分のこと」

「好きになった?」

私は。

驚いた。

そして。

少しだけ。

笑う。

「前よりは」

「いいことだ」

神崎が。

軽く。

笑った。

「そのほうが」

「今の紗良さん」

「魅力的だし」

「……ありがとう」

その瞬間。

なぜか。

頭に。

陽向が。

浮かんだ。

これ。

言ったら。

また。

嫉妬するかな。

少し。

可笑しくなった。

◇◇◇

撮影が。

終わったのは。

予定より。

少し遅い。

二十時半。

楽屋を出ると。

スマートフォン。

陽向。

『下いる』

「え?」

本当に。

来たんだ。

駐車場へ。

降りる。

帽子。

マスク。

完全装備の。

陽向が。

車の中から。

手を振っている。

「お疲れ」

助手席へ。

乗る。

「お疲れ!」

「明日早いんでしょ?」

「うん」

「何時間寝れるの?」

「考えない」

「考えて」

「美月」

「何?」

「会えて嬉しい?」

「……」

いきなり。

それ?

「嬉しいけど」

「じゃあいい」

「よくない」

でも。

笑ってしまう。

陽向も。

笑った。

◇◇◇

「今日」

車を。

走らせながら。

陽向が。

言った。

「何撮った?」

「ドラマ」

「それは知ってる」

「神崎さんとのシーン」

「……」

分かりやすく。

少し。

口元が。

下がった。

「陽向」

「何?」

「嫉妬した?」

「してない」

「本当に?」

「仕事だろ」

「うん」

「分かってる」

「じゃあ」

「でも」

陽向が。

少し。

口を尖らせる。

「何?」

「キスシーン」

「まだないよ」

「まだ?」

「台本にはある」

車が。

ほんの少し。

静かになった。

「……何話?」

「聞いてどうするの?」

「心の準備」

「見ないほうがいいんじゃない?」

「見る!」

「何で?」

「主演ドラマなんだから!」

「絶対機嫌悪くなるじゃん」

「仕事とプライベートは」

陽向が。

胸を張る。

「分けられます」

「本当に?」

「……努力します」

私は。

笑った。

◇◇◇

信号待ち。

陽向が。

ちらっと。

私の左手を見る。

「……また」

「え?」

「左手見てる」

「見てない!」

「最近」

「多いよ?」

「気のせい」

私は。

じっと。

陽向を見る。

怪しい。

何か。

ある。

でも。

陽向は。

必死に。

前だけを見る。

「ねえ」

「何」

「隠し事?」

「ない!」

即答。

怪しい。

「本当に?」

「うん!」

「星とも」

「何か」

陽向の肩が。

ぴくっと。

動いた。

「……」

「今」

「何で星の名前で」

「反応したの?」

「してない!」

「した!」

「してない!」

「絶対何かある!」

「ない!」

陽向。

必死。

私は。

眉を寄せる。

最近。

星からも。

妙なメッセージが。

増えていた。

『ママ、最近左手の指輪ってつける?』

とか。

『好きな花って今も同じ?』

とか。

『夜景と海ならどっちが好き?』

とか。

そのときは。

モデルの仕事か。

何かかと。

思っていた。

でも。

今。

陽向の反応。

「……二人で」

「何か企んでる?」

「企んでない!」

「怪しい」

「何もない!」

「陽向」

「何!」

「顔」

「見るな!」

「分かりやすすぎ!」

陽向が。

頭を抱えた。

「もう!」

「何?」

「美月」

「変なとこ」

「鋭いんだよ!」

「変なとこって何!」

車の中。

二人で。

大騒ぎ。

でも。

結局。

陽向は。

何も。

教えてくれなかった。

◇◇◇

数日後。

私は。

星と。

二人で。

カフェにいた。

久しぶりの。

母娘だけの時間。

「ママ」

「何?」

「主演」

「正式に決まったんでしょ?」

「うん」

「おめでとう」

「ありがとう」

「絶対見る」

「毎週?」

「もちろん」

「陽向より?」

「それとこれとは別」

「……」

私と。

似たこと。

言う。

「ねえ星」

「何?」

私は。

コーヒーを。

置いた。

「最近」

「うん」

「陽向と連絡してる?」

星の手が。

止まった。

「……」

「してるんだ」

「いや」

「してるよね?」

「たまに」

「何の話?」

「普通の」

「普通って?」

「いろいろ」

「怪しい」

星が。

視線を。

逸らした。

陽向と。

まったく。

同じ。

「二人」

「何か」

「隠してるでしょ」

「隠してないよ」

「目」

「見て」

「ママ」

星が。

急に。

真面目な声。

「何?」

「世の中には」

「知らないほうが」

「幸せなこともある」

「何その意味深な言い方!」

星が。

吹き出した。

「冗談!」

「絶対何かある!」

「ないって!」

「陽向も」

「同じ反応した!」

「……」

「ほら!」

星が。

顔を。

両手で。

覆う。

「陽向くん!」

「何?」

「口止め」

「下手すぎ!」

「やっぱり!」

私は。

身を乗り出した。

「何!?」

「言えない!」

「何で!?」

「言ったら」

「ママが」

「困るから!」

「何に!?」

「それも言えない!」

「もう!」

でも。

星が。

楽しそう。

嫌なことでは。

なさそう。

それだけは。

分かった。

「……まあ」

私は。

諦めて。

コーヒーを飲む。

「いいけど」

「うん」

「危ないこと」

「してない?」

「してない」

「私に」

「嘘ついてない?」

星が。

少し。

考える。

「嘘は」

「ついてない」

「……」

「言ってないことが」

「あるだけ」

陽向と。

同じようなこと。

言いそう。

「分かった」

私は。

小さく。

ため息。

「待つ」

星が。

目を丸くする。

「聞かないの?」

「気になるよ」

「うん」

「でも」

私は。

少し笑った。

「二人が」

「話せるときに」

「話して」

星が。

少し。

驚いたあと。

嬉しそうに。

笑った。

「ママ」

「何?」

「やっぱ」

「変わったね」

「最近」

「そればっかり言われる」

◇◇◇

カフェを。

出る前。

星が。

突然。

言った。

「ママ」

「何?」

「幸せ?」

また。

その質問。

私は。

一瞬。

考える。

そして。

「うん」

「すごく」

星が。

笑う。

「そっか」

「どうしたの?」

「別に」

でも。

少しして。

星が。

小さく言った。

「前は」

「ママって」

「幸せそうに」

「見える日もあったけど」

「……」

「自分のこと」

「幸せって」

「言わなかった気がする」

胸が。

静かに。

揺れた。

「そうかも」

「だから」

星が。

私を見る。

「今」

「幸せって」

「言えるなら」

少し。

笑う。

「よかった」

涙が。

滲みそうになる。

「星」

「何?」

「ママ」

「今」

「本当に幸せだよ」

「うん」

「みんなに」

「また会えて」

「うん」

「仕事も」

「やりたいって思えて」

「うん」

「陽向も」

言った瞬間。

星が。

にやっと。

笑う。

「やっぱ最後そこ」

「何?」

「別に」

「もう」

◇◇◇

その日の夜。

陽向へ。

星から。

メッセージが届いた。

『ママ、気づきかけてます』

陽向。

一瞬で。

青ざめる。

『何で!?』

『陽向くんが分かりやすすぎるから』

『星ちゃんもでしょ!』

『私はうまくやってます』

『嘘だ』

『でもママ、追及やめました』

『なんで?』

少しして。

星から。

返事。

『私たちが言えるときまで待つって』

陽向は。

しばらく。

画面を。

見ていた。

美月。

本当に。

変わった。

何でも。

自分で。

答えを出そうと。

しなくなった。

信じて。

待てるようになった。

だから。

余計に。

中途半端な。

プロポーズは。

したくない。

陽向は。

ジュエリーショップで。

選んだ。

リングの写真を。

もう一度。

見る。

まだ。

購入は。

していない。

最後に。

一つだけ。

確かめたかった。

『星ちゃん』

『はい』

『指輪』

『あれにしようと思う』

返信。

『いいと思います』

そして。

もう一通。

『でも』

『プロポーズの場所』

『派手なのはやめたほうがいいかも』

陽向が。

眉を上げる。

『何で?』

『ママ』

『たぶん』

少しして。

続き。

『豪華な場所より』

『「自分のために考えてくれた」って分かるほうが喜ぶから』

陽向は。

その言葉を。

じっと見た。

確かに。

美月は。

高級な物を。

求める人ではない。

むしろ。

小さな。

チーズケーキ。

一緒に選んだ。

マグカップ。

何気ない。

夕飯。

そういうものを。

大事にしている。

だったら。

「……あそこか」

陽向の中に。

一つ。

場所が。

浮かんだ。

美月と。

初めて。

『ただの陽向』と。

『ただの美月』として。

笑えた場所。

誰かの母親でも。

人気女優でも。

トップアイドルでもなく。

二人が。

二人として。

近づいた。

あの場所。

陽向は。

小さく。

笑った。

「決めた」

◇◇◇

私は。

まだ。

何も知らない。

主演ドラマの。

クランクインを。

目前にして。

仕事のこと。

子どもたちのこと。

熱愛報道のこと。

毎日。

考えることで。

いっぱいだった。

でも。

不思議と。

苦しくはなかった。

昔は。

『全部ちゃんとしなきゃ』

と。

思っていた。

今は。

違う。

できない日は。

助けてもらう。

会いたい日は。

会いたいと言う。

怖いときは。

怖いと言う。

やりたいことは。

やりたいと言う。

そんな。

当たり前のことを。

少しずつ。

覚えている。

ベッドへ。

入る前。

陽向から。

メッセージ。

『来週、夜空いてる日ある?』

「……?」

私は。

手帳を見る。

撮影。

打ち合わせ。

子どもたち。

その隙間。

一日だけ。

早く終わる日がある。

『水曜なら』

すぐに。

返事。

『じゃあ空けといて』

『何するの?』

しばらく。

既読。

なのに。

返事が。

来ない。

「……怪しい」

ようやく。

届く。

『デート』

私は。

少し笑った。

『それだけ?』

『それだけ』

絶対。

それだけじゃない。

でも。

私は。

それ以上。

聞かなかった。

『分かった。空けとく』

送信。

陽向から。

すぐに。

『約束な』

『うん』

そして。

少しして。

『美月』

『何?』

『その日』

一度。

既読。

しばらく。

間。

『俺に少し時間ちょうだい』

胸が。

妙に。

鳴った。

「……何それ」

私は。

画面を。

見つめる。

でも。

答えは。

一つ。

『いいよ』

送信。

私は。

まだ。

知らなかった。

その水曜日が。

私の。

二度目の人生で。

一番。

忘れられない夜の。

始まりになることを。
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