儚く散った初恋は十二年の時を経て芽吹く 〜犬猿の仲だった御曹司と再会したら溺愛されました〜

初恋(拓真視点)

 拓真は、結月が降りていった階段を呆然と見つめながら、過去に思いを馳せた。

 結月への恋心を自覚したのはこの神社で行われた十二年前の夏祭りのことだったと記憶している。

 夜空に咲く華やかな花火に照らされて、結月の美しい黒髪が一層つややかに見えた。つい見惚れていると、彼女が拓真のほうを向いて、屈託のない笑顔で手を握ったのだ。

「よそ見をしていたら損だよ。ほら見て、めちゃくちゃ綺麗!!」

 不意に繋がれた手に、心臓がドキリと跳ねて体温が急上昇した。そのとき、拓真は結月への想いを自覚したのだ。
 だが、学校のやつらに見られたのは悪かった。結月とのことを、めちゃくちゃ揶揄われたせいで、拓真は素直に己の気持ちを認められなくなった。

 無視をしたり、突き離すために小さな嫌がらせをしてみたり……でも離れていってほしくないから、どうにか謝りたいと思って彼女につきまとった。でも素直になれたことは一度もない。

 次第に拓真の顔を見るたびに泣きそうな顔をするようになった結月に、さらにどうしていいか分からなくなり、拓真は焦りから結月にきつく当たってしまった。その結果、とんでもなく嫌われてしまった。

 あのクリスマス会の日も、本当はいままでのことを詫びて、仲直りするつもりだった。そして「またここに帰ってこいよ」と言いたかった。それなのに、なぜ出来なかったんだろう。なんでもっとちゃんと謝れなかったんだろう。何度後悔したかしれない。

 渡すはずだったプレゼントは今も拓真の自室に未練がましく置かれている。

 プレゼントは箱がひしゃげた当時のまま、捨てることもできない。歪んだ箱は、まるで自分と結月の関係のようだ。

 本当は学校でも外でも、今までどおり何げない会話を交わしたかった。いつもと同じ笑顔を向けてほしかった。
 仲良くしたかった。

 あのとき揶揄われたからって、結月の手を離さなければよかった。誰がなんと言おうと結月のほうが大切なはずなのに……くだらない意地やプライドを優先して自分はなんと愚かなことをしてしまったのだろう。

 心の中で何度謝り悔いても、もう彼女がここに戻り許してくれることはないのに。

 そう思っていたら、結月がこの街に戻ってきた。もしかすると、神様が拓真の後悔を聞き入れてチャンスをくれたのかもしれない。次は失敗するなと……。

「今度こそ、結月と仲良くしたい」

 けれど、そんな簡単に許されるとも思っていない。

 結月は拓真のせいで、拓真の同級生たちにも揶揄われるようになった。彼女が受けた心の傷は拓真などには量りしれないだろう。

 それでもいつかは許してほしい。

 何度だって謝るから。好きになってくれとは言わない。でもどうか昔のように笑いかけてほしい。結月と笑顔で挨拶を交わせるくらいにはなりたい。そのためにならどんなことだってするから。

「結月」

 祈るように彼女の名前を絞り出す。
 目を瞑ると、あの夏祭りの日――夜空に咲く花火よりも美しい結月の笑顔が鮮明に浮かんだ。
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