儚く散った初恋は十二年の時を経て芽吹く 〜犬猿の仲だった御曹司と再会したら溺愛されました〜

拓真が淹れてくれたお茶

 ――数日後。

「ふぁっ……」

 今日は仕事が休みなので、祖母を手伝わなければ……。結月はちらりと時計を見て時刻を確認した。

(午前六時か。どうりで寝覚めがすっきりしているわけだわ)

 最近では悪夢を見て四時半くらいに起きていたのに、昨夜は久しぶりにぐっすり眠れたようだ。

 結月は朝の支度をしながら、ふとあることに気がついた。

(そういえば、拓真くんの夢を見ていないわ)

 そのおかげか、身体が軽い。

「もしかして拓真くんと話したから?」

 不安が少し解消されたのだろうか。どうやら自分は思ったより単純だったらしい。

 結月は着替え終え、窓を開けて静謐な空気に満ちた朝の香りを吸い込んだ。今日もよい天気だ。

(まあ今の彼は、あえて私を傷つけるようなことはしなさそうだものね)

 祖母の手伝いの邪魔にならないように長い髪を一つに纏めながら、ぼんやりと拓真のことを考える。
 だからといって油断は禁物だが、子どものときとは違い、結月も泣いてばかりではない。言い返せるし、追い返すことだってできる。戦えるのだ。

 結月は大きく深呼吸してから、お店のほうにおりた。

「あれ?」

 顔を覗かせると、祖母ではなく拓真がカウンターの中に立ち、何かをしていた。
 もしかして、こいつも休みなのだろうか……。

「おはようございます、結月」
「……おはよう。おばあちゃんは?」
「そろそろ起きてくると思いますよ」
「そう。……あんた、仕事は? 朝から何しに来たの? いくらなんでも、こんな朝早く失礼だと思わないの?」

 笑顔で挨拶をしてくる拓真とは違い、結月は不機嫌な声を出した。でも拓真は気にしていないようで、柔らかな表情で話しかけてくる。

「今日はゆっくりなんです。だから開店準備を手伝いにきました」
「ふーん、重役出勤ってやつ? 私がいるから別に来なくてもいいのに」
「そんな寂しいこと言わないでください。結月の邪魔にはならないようにしますから」

 拓真は結月の嫌味を軽く笑って流し、茶葉を手に取った。そして沸いたばかりのお湯を湯呑みに注ぎ、次に急須へと移す。慣れた手つきだ。

 邪険に扱いながらも追い返さない結月に安堵したのか、拓真は嬉しそうに話しかけてくる。

「結月は何の仕事をしてるんですか? こっちで就職したんですよね?」
「ええ、湘南にあるリゾートホテルで働いているわ」
「それは結月にぴったりですね。昔から人を喜ばせることが好きでしたもんね」

 そう言ってもらえて、結月ははにかんだ。
 フロント業務は大変だけれど、ゲストの笑顔や『ありがとう』という言葉が、すごく嬉しい。とてもやりがいのある仕事だ。
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