儚く散った初恋は十二年の時を経て芽吹く 〜犬猿の仲だった御曹司と再会したら溺愛されました〜
「基本的には日勤なんだけど、繁忙期は夜勤もしなきゃならないの」
「結月が忙しいときは、透子さんと店のことは任せてください」
「……癪に障るけど、そのときは仕方がないのかしら」

 専務を務めている拓真は、きっと結月以上に多忙なはずだ。それなのに、彼は時間を見つけては祖母やこの店を気遣ってくれる。

(文句を言いつつ、結局は彼の厚意に甘えて、ここにいることを許してる。……私ったら駄目ね)

「ええ、いっぱいこきつかってください」

 結月の胸中など知らず、拓真は満面の笑みでそう言った。

 彼は先ほど急須に移したお湯を別の湯呑みに移し替えてから、急須に茶葉を入れる。そして先ほど湯冷まししたお湯を注いだ。

「……拓真くんって、とても丁寧にお茶を淹れるのね」
「お茶は手間をかけてあげたほうが美味しくなるんですよ」

 ふわりと立ちのぼる白い湯気とお茶の香りに、結月は目を閉じた。

 においを嗅ぐと若葉のような爽やかさの奥に、深みのある香りが立つ。
 お茶は心を込めて淹れないと、本来の味を引き出せないと聞いたことがある。

 朝だと忙しくて、電気ケトルで沸かしたお湯でさくっと淹れてしまいがちだが、丁寧に向き合う拓真に、人柄の良さを見た気がした。

「いい香り。朝から拓真くんを見て苛立った気持ちが落ち着いていくようだわ」
「ははっ、まいったな……。でも毎日は来られないけど、時間を見つけてはここに来ているから、いちいち苛立たないでいいように早く慣れてください。実際会社以外では、自分の家や実家よりここにいるほうが多いんですよ」

 なんだそれは。まるで拓真のほうが孫みたいではないか。
 というか、祖母が起きる前からお店にいて開店準備がてらお茶を淹れているあたり、すでにこの店の一員のような振る舞いだ。そしてそれを祖母も許しているのだろう。

 拓真は苦笑いして、結月の前にお茶を置く。どうやら結月のために淹れてくれたらしい。

「コーヒーもいいけど、朝はやっぱり緑茶が飲みたいなって俺は思うんです。だから、結月もどうぞ」
「ありがとう」

 ひと口飲むと、上品な苦い風味がやってきた。続いて、しっかりとした旨味と甘みが口の中に広がる。

「美味しい」

 ポツリと感想がこぼれる。ほうっと息を漏らした結月を、拓真が意外そうに見ていた。
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