儚く散った初恋は十二年の時を経て芽吹く 〜犬猿の仲だった御曹司と再会したら溺愛されました〜
親友
「――で、絆されちゃったんだ」
「まだよ、まだ」
結月は金曜日の仕事終わり、結月が勤めるホテルのカフェで、親友の由香里に思いを吐露した。
すると、彼女がふふふと笑う。
彼女は豊かな栗色の髪をシニヨン風にまとめ、春めいた淡い水色のバンドカラーブラウスとネイビーのIラインスカートに身を包んでいた。久しぶりに会うが、相変わらず出来る女という感じだ。
彼女とは頻繁に連絡は取り合っていたものの、会えたのは数年ぶりだ。
本当は祖母のお店に招きたかったけど、仕事後だと閉店しているし、何より由香里の職場もこの近くにあるので、今回は結月の職場で会うことにしたのだ。
由香里はコーヒーを飲みながら、クスッと笑った。
「結月は元々人を憎み続けられるタイプじゃないから許して仲直りできるなら、いいと思うよ。そっちのほうが、健全だもの。それに碓氷がめちゃくちゃ後悔しているのは、あのクリスマス会にいた人なら皆知っているから、結月が彼を許しても誰も驚きはしないわ」
「え? そうなの?」
「うん。結月には言っていなかったんだけど、結月が引っ越していったあとの落ち込みようは見てらんなかったわよ。まあ泣こうが喚こうが悔やもうが覆水盆に返らずよ。やった事実は覆らないから、慰めるようなことは絶対しなかったけど」
拓真は、由香里にプレゼントを壊してしまったことやクリスマス会を台無しにしたことを深く謝罪したらしい。
結月は引っ越すときに、由香里や友人たちには『拓真とは二度と関わりたくない』と伝えていたので、結月の思いを汲んで、彼女らはずっと何も言わないでいてくれたのだ。
結月の心にさざなみが立たないように――
「由香里はさ、拓真くんに対してもう怒ってないの?」
「怒ってないわよ。謝ってくれたし、ずっと後悔している姿を見てきてるから……積極的に仲良くしようとは思わないけど、もう嫌な感情はないわ」
「そっか……」
小さく返事をして、結月は今来たばかりのケーキを一口分に切り分け、口に運んだ。
さくさくのタルト生地に、抹茶ダマンドと桜あんクリームは相性抜群で、とても美味しかった。中に敷き詰められているあずきもホクホクしている。
「……由香里の言うように、やったことはなかったことにはならないわ。でも、心から悔いている人の謝罪を受け入れられない器の小さな人間になりたくないとも思うの。頭では分かっていても、現実はなかなか難しいんだけどね」
人は失敗して学ぶ生き物だ。
そういうとき、やり直す機会は与えられて然るべきだと結月は考えている。
といっても、心はそんな単純にできていない。意地も張るし、警戒もする。
どうするべきか理解していても大人の対応など簡単にはできないのだ。
「難しくて当たり前よ。そんなもの、ゆっくりでいいのよ。今すぐ全部を許す必要はないわ。……きっと結月は、私が知っている以上に嫌な思いをたくさんしてきただろうから。もう少し反省させとけばいいのよ。結月の心がつらくない選択をしてね」
「うん……ありがとう」
「近々、結月のおばあちゃんのお店に顔を出すね」
「ええ、待ってるわ」
結月は、由香里の慈愛に満ちた笑顔に、胸があたたかくなった。かなり心が軽くなった気がする。
ホテルを出る頃には、空は明るいオレンジから薄紅色に移り変わり、上空に向かって深い群青色に染まりはじめていた。刻一刻と表情を変える空は美しかった。
「まだよ、まだ」
結月は金曜日の仕事終わり、結月が勤めるホテルのカフェで、親友の由香里に思いを吐露した。
すると、彼女がふふふと笑う。
彼女は豊かな栗色の髪をシニヨン風にまとめ、春めいた淡い水色のバンドカラーブラウスとネイビーのIラインスカートに身を包んでいた。久しぶりに会うが、相変わらず出来る女という感じだ。
彼女とは頻繁に連絡は取り合っていたものの、会えたのは数年ぶりだ。
本当は祖母のお店に招きたかったけど、仕事後だと閉店しているし、何より由香里の職場もこの近くにあるので、今回は結月の職場で会うことにしたのだ。
由香里はコーヒーを飲みながら、クスッと笑った。
「結月は元々人を憎み続けられるタイプじゃないから許して仲直りできるなら、いいと思うよ。そっちのほうが、健全だもの。それに碓氷がめちゃくちゃ後悔しているのは、あのクリスマス会にいた人なら皆知っているから、結月が彼を許しても誰も驚きはしないわ」
「え? そうなの?」
「うん。結月には言っていなかったんだけど、結月が引っ越していったあとの落ち込みようは見てらんなかったわよ。まあ泣こうが喚こうが悔やもうが覆水盆に返らずよ。やった事実は覆らないから、慰めるようなことは絶対しなかったけど」
拓真は、由香里にプレゼントを壊してしまったことやクリスマス会を台無しにしたことを深く謝罪したらしい。
結月は引っ越すときに、由香里や友人たちには『拓真とは二度と関わりたくない』と伝えていたので、結月の思いを汲んで、彼女らはずっと何も言わないでいてくれたのだ。
結月の心にさざなみが立たないように――
「由香里はさ、拓真くんに対してもう怒ってないの?」
「怒ってないわよ。謝ってくれたし、ずっと後悔している姿を見てきてるから……積極的に仲良くしようとは思わないけど、もう嫌な感情はないわ」
「そっか……」
小さく返事をして、結月は今来たばかりのケーキを一口分に切り分け、口に運んだ。
さくさくのタルト生地に、抹茶ダマンドと桜あんクリームは相性抜群で、とても美味しかった。中に敷き詰められているあずきもホクホクしている。
「……由香里の言うように、やったことはなかったことにはならないわ。でも、心から悔いている人の謝罪を受け入れられない器の小さな人間になりたくないとも思うの。頭では分かっていても、現実はなかなか難しいんだけどね」
人は失敗して学ぶ生き物だ。
そういうとき、やり直す機会は与えられて然るべきだと結月は考えている。
といっても、心はそんな単純にできていない。意地も張るし、警戒もする。
どうするべきか理解していても大人の対応など簡単にはできないのだ。
「難しくて当たり前よ。そんなもの、ゆっくりでいいのよ。今すぐ全部を許す必要はないわ。……きっと結月は、私が知っている以上に嫌な思いをたくさんしてきただろうから。もう少し反省させとけばいいのよ。結月の心がつらくない選択をしてね」
「うん……ありがとう」
「近々、結月のおばあちゃんのお店に顔を出すね」
「ええ、待ってるわ」
結月は、由香里の慈愛に満ちた笑顔に、胸があたたかくなった。かなり心が軽くなった気がする。
ホテルを出る頃には、空は明るいオレンジから薄紅色に移り変わり、上空に向かって深い群青色に染まりはじめていた。刻一刻と表情を変える空は美しかった。