儚く散った初恋は十二年の時を経て芽吹く 〜犬猿の仲だった御曹司と再会したら溺愛されました〜
残業
(もう二十二時か……こんなに遅くなったの初めてだから、おばあちゃん……心配してるかも)
今日は国内でもトップシェアを誇る大企業の令嬢と御曹司の結婚式があったので、とても忙しかった。
結婚式や披露宴後は、新郎新婦だけでなく招待客も宿泊を予定していたので、てんてこ舞いだった。
といっても、それは結月や新人スタッフのみで、先輩方は常に冷静だった。
移動の少ない館内動線と宿泊対応は、感動を覚えたものだ。
(私もいつかそうなれるように頑張らなきゃ)
結月は目標を胸にかかげ、最寄駅で電車を降りた。改札機にICカードをかざして通り抜け、帰路を急ぐ。
「おかえりなさい。今日は遅かったですね」
そのとき肩を叩かれ、結月が振り返ると、そこには拓真がいた。
彼は気遣わしげに眉を寄せ、結月の手からバッグを取り、代わりに持ってくれる。
「今日は大きな結婚式があって、とても忙しかったから……。それより、もう遅いのにどうしたの?」
「会社の窓から駅のホームにいる結月の姿が、偶然見えたから、走ってきました」
「何それ」
そういえば碓氷文具は駅前にあった。そうか、そこから見えてしまうのか。
結月が呆れた声を出すと、拓真が「すみません」と頭を掻く。
「疲れていますよね? 家まで車で送らせてください」
「馬鹿、いらないわよ」
駅から自宅までは歩いて十分もかからないので、わざわざ車を出してもらうほどではない。結月がそう言うと、拓真が並んで歩きはじめた。
「今日は結月が遅くなるって、透子さんから聞いていたんです。夜道を一人で歩かせるのは不安だから迎えに行くべきかって、透子さん、すごく悩んでいましたよ」
「やだ、おばあちゃんったら。過保護なんだから」
なるほど。だからタイミングよく拓真が現れたのか。
祖母が心配しているのをみかねて、きっと拓真がその役目を請け負ってくれたのだろう。
(偶然じゃなくて、私が帰ってくるのを待っていてくれたのね……)
拓真の言葉で得心がいった結月は、祖母や拓真の気遣いがくすぐったくて困り顔で笑った。
「心配なんですよ。それは俺も同じです。まあ結月からしたら、俺だったらいないほうがマシなのかもしれませんが」
「……そんなことないわ。ありがとう」
そうこうしているうちに自宅に着く。結月がぶっきらぼうに礼を言うと、拓真の手が結月の頭に伸びてくる。
ねぎらおうとしているのかもしれないが、結月はすかさず振り払った。
「調子に乗らないで」
「すみません、つい。じゃあ、俺そろそろ帰りますね」
「ちょっと待って」
拓真が帰ろうとしたので、結月は慌てて彼を引き留めた。
「せっかくなんだから、お茶くらい飲んで行きなさいよ」
「でも迷惑じゃ……あ、いえ、お言葉に甘えます。ありがとう」
拓真は何やら考える素振りを見せたあと、結月の提案を受け入れて、嬉しそうに玄関に足を踏み入れた。そのとき、奥から祖母の声が聞こえてくる。
今日は国内でもトップシェアを誇る大企業の令嬢と御曹司の結婚式があったので、とても忙しかった。
結婚式や披露宴後は、新郎新婦だけでなく招待客も宿泊を予定していたので、てんてこ舞いだった。
といっても、それは結月や新人スタッフのみで、先輩方は常に冷静だった。
移動の少ない館内動線と宿泊対応は、感動を覚えたものだ。
(私もいつかそうなれるように頑張らなきゃ)
結月は目標を胸にかかげ、最寄駅で電車を降りた。改札機にICカードをかざして通り抜け、帰路を急ぐ。
「おかえりなさい。今日は遅かったですね」
そのとき肩を叩かれ、結月が振り返ると、そこには拓真がいた。
彼は気遣わしげに眉を寄せ、結月の手からバッグを取り、代わりに持ってくれる。
「今日は大きな結婚式があって、とても忙しかったから……。それより、もう遅いのにどうしたの?」
「会社の窓から駅のホームにいる結月の姿が、偶然見えたから、走ってきました」
「何それ」
そういえば碓氷文具は駅前にあった。そうか、そこから見えてしまうのか。
結月が呆れた声を出すと、拓真が「すみません」と頭を掻く。
「疲れていますよね? 家まで車で送らせてください」
「馬鹿、いらないわよ」
駅から自宅までは歩いて十分もかからないので、わざわざ車を出してもらうほどではない。結月がそう言うと、拓真が並んで歩きはじめた。
「今日は結月が遅くなるって、透子さんから聞いていたんです。夜道を一人で歩かせるのは不安だから迎えに行くべきかって、透子さん、すごく悩んでいましたよ」
「やだ、おばあちゃんったら。過保護なんだから」
なるほど。だからタイミングよく拓真が現れたのか。
祖母が心配しているのをみかねて、きっと拓真がその役目を請け負ってくれたのだろう。
(偶然じゃなくて、私が帰ってくるのを待っていてくれたのね……)
拓真の言葉で得心がいった結月は、祖母や拓真の気遣いがくすぐったくて困り顔で笑った。
「心配なんですよ。それは俺も同じです。まあ結月からしたら、俺だったらいないほうがマシなのかもしれませんが」
「……そんなことないわ。ありがとう」
そうこうしているうちに自宅に着く。結月がぶっきらぼうに礼を言うと、拓真の手が結月の頭に伸びてくる。
ねぎらおうとしているのかもしれないが、結月はすかさず振り払った。
「調子に乗らないで」
「すみません、つい。じゃあ、俺そろそろ帰りますね」
「ちょっと待って」
拓真が帰ろうとしたので、結月は慌てて彼を引き留めた。
「せっかくなんだから、お茶くらい飲んで行きなさいよ」
「でも迷惑じゃ……あ、いえ、お言葉に甘えます。ありがとう」
拓真は何やら考える素振りを見せたあと、結月の提案を受け入れて、嬉しそうに玄関に足を踏み入れた。そのとき、奥から祖母の声が聞こえてくる。