儚く散った初恋は十二年の時を経て芽吹く 〜犬猿の仲だった御曹司と再会したら溺愛されました〜
「いいわね。おばあちゃんの分も買いましょう」
「あの……もしよければお揃いにしませんか?」

 とても申し訳なさそうにお伺いをたてる拓真が、結月は少しおかしかった。クスッと笑い、首肯する。

(仕方ないわね)

「ええ、いいわよ。この前みたいにうちでご飯を食べるときに使えばいいと思うわ」
「いいんですか?」

 めちゃくちゃ喜ぶ拓真に、結月は胸が温かくなるのを感じた。彼を見ても、嫌な気持ちになるどころか、微笑ましくなってくるから珍妙な気分だ。

(普段の生活がより楽しくなるような食器に囲まれていると、心の中にちょっとした余白ができるのかもしれないわね)

 人を許すのも、気遣うのも、心の余裕が必要だ。
 自身のことでいっぱいの状態では、相手の気持ちを汲むことはもちろん、周囲の空気を読むこともできない。ここはそういった余裕をくれる気がした。

 その後は、同じデザインの箸置きを色違いで三つ買って、坂をくだった。そして最初に気になっていたクレープ屋に寄る。そこは、はちみつを贅沢に使ったオーガニッククレープのお店だった。

 結月たちがお店に着く頃には、タイミングがよく先ほどの行列はなくなり、二組ほどの客が待っているところだった。

(ベストタイミングね)

 一枚ずつ丁寧に焼き上げる手元を見ながら、結月は出来上がっていくクレープに相好を崩す。

「めちゃくちゃ美味しい~!」

 ひとくち食べると、至福の声が漏れた。
 はちみつの濃厚な甘みとエスプーマ仕立てのふわふわクリームが絶妙に絡み合って幸せの味だ。
 最初はパリッと香ばしく、食べ進めるともちもちになっていく生地の変化がすごく楽しい。

「チョコも美味しいですよ。こっちも食べてみますか?」

 目の前に差し出されて、ついパクリとかじる。チョコレートの深みとクリームの軽やかさがバランス良く、かなりの満足感だ。一緒に入っているバナナはやはりチョコレートとは相性抜群だ。

「やばい、どれもすごく好きだわ」

 頬が落ちそうだ。結月は頬を押さえながら、感嘆の息をついたところで、ハッとした。

 そういえば、自然な流れで味見をさせてもらったが、これは間接キスでは?

 そのことに気がつくと、顔がみるみるうちに熱くなってくる。結月は途端に何も言えなくなって、無言でクレープを食べた。

「急に静かになってどうしました? 喉が渇きましたか?」

 不思議そうに首をひねった拓真はハニーラテとフレーバーティーを注文した。そして両方を結月の前に差し出す。好きなほうを選べということだろうか。

 結月はせっかくだからと季節限定のフレーバーティーを受け取り、ひとくち飲んだ。
 香り高い桜の葉と花の風味がざわめいた心を落ち着かせてくれた。
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