儚く散った初恋は十二年の時を経て芽吹く 〜犬猿の仲だった御曹司と再会したら溺愛されました〜

トラブル

「あ、あの……ゴメンナサイ」
「はい」

 青ざめた表情の女性に片言で声をかけられて、結月はハッとした。

(私ったらいけないわ。仕事に集中しなきゃ)

 フロントに来たのは、昨夜チェックインした韓国人のお客様だ。彼女は本当に申し訳なさそうに、結月にスマートフォンの画面を見せた。どうやら翻訳アプリのようで、画面には『I got dirty.』と表示されていた。

(汚れた?)

 確か、この方は三歳と五歳の子どもが二人いるご夫婦だ。もしかすると、子どもたちが何かを汚してしまったのかもしれない。

 結月は、一緒に来てほしいという彼女と一緒に客室に向かった。すると、そこにはベッドのシーツにこぼれたミルクを一生懸命拭いている男性の姿があった。

 彼女の申し訳なさそうな様子から、結月はひどく汚れてしまったものだと考えていたので、拍子抜けした。

『問題ありませんので、ご安心ください。今すぐ新しいシーツに取り替えさせていただきますね』

 そう英語で伝え、清掃スタッフとともに、シーツを取り替える。その間、夫婦は何度もお礼を伝えてくれるし、子どもたちは土産用に買った日本のお菓子をバッグから取り出して結月たちにくれた。

 感謝の気持ちを伝えてそれらを全部返ししながらも、結月は胸が温かくなった。とても優しくて素敵な方たちだ。

 篠原が引き続きのときに言っていた水本のような困ったお客様もいるが、優しくて礼儀正しいお客様もたくさんいる。そういう素敵な人と出会うと、自分も頑張ろうとやる気が出るし、自然と笑顔にもなる。

 しんどいことも多いがやり甲斐があるから、この仕事はやはり楽しい。

 結月が幸せな気持ちで廊下を歩いていると、エレベーターから人が降りてきた。端により頭を下げると、その人が結月の前で歩みを止める。

「あれぇ、こんなに可愛いスタッフさんがいたんだ」
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