儚く散った初恋は十二年の時を経て芽吹く 〜犬猿の仲だった御曹司と再会したら溺愛されました〜
頭上から降ってきた男性の声に、結月は顔を上げた。少し癖っ毛の茶色の髪を搔きあげ、こちらに笑みを向けてきた人は三十代後半の男性のお客様だ。その人の顔を見て、結月は一瞬硬直した。
(やばっ、水本様だわ)
結月はつい感情を顔に出してしまったことに気づいて、表情を隠すように深く頭を下げた。すると、顎に手が伸びてきて上を向かされる。
(え……!?)
「仕事、何時まで? 終わったら部屋においでよ。一緒に飲もう。それとも、どこかに食事に行こうか?」
「大変申し訳ございません。そういったことは……」
「知ってる。できないんだよね? 皆、そう答えるから、もう覚えちゃったよ」
分かっているなら、やめてほしい。結月が再度謝り頭を下げると、また上を向かされる。そして赤い顔を近づけてきた。アルコールのにおいがしていることから、彼が酔っているのが分かる。
「俺、十日ほどここに泊まる予定なんだ。そんなに長く泊まるんだから、少しくらい特別扱いしてよ。マニュアルどおりの対応なんて心がないと思わないかい?」
猫撫で声を出す水本を気持ち悪いとは思ったが、言うわけにはいかないので、結月は少し困ったような笑みで、できないことを伝えた。が、おそらく酔っている水本には納得してもらえないだろうから、早々にインカムで助けを呼ぶことに決めた。
(篠原さんも一人で何とかしようとせずに頼りなさいって言ってたし、いいよね)
結月がインカムでほかのスタッフに連絡を取ろうとした途端、水本に手を掴まれて止められる。
「そんなに嫌そうにしなくていいじゃないか。傷つくなぁ」
「大変申し訳ございません」
(うう、失敗した……)
こんなとき先輩たちならうまく躱せるのだろうが、結月にはまだそのスキルがない。酔って過ぎた行動をとる客をどう宥めて納得させたらいいか分からないのだ。
「水本様、このようなことは困ります」
「困ります、だって。可愛い~。俺、君のこと気に入っちゃった」
(は? 馬鹿にしてんの?)
結月の抵抗を嗤う水本に、心の中で舌打ちをする。解放してくれる気はないようだ。
それにしても、この人は何を考えているのだろうか。酔っているからって館内でこのような愚かや行為に及ぶなど、ありえない。
「日向さん!」
(やばっ、水本様だわ)
結月はつい感情を顔に出してしまったことに気づいて、表情を隠すように深く頭を下げた。すると、顎に手が伸びてきて上を向かされる。
(え……!?)
「仕事、何時まで? 終わったら部屋においでよ。一緒に飲もう。それとも、どこかに食事に行こうか?」
「大変申し訳ございません。そういったことは……」
「知ってる。できないんだよね? 皆、そう答えるから、もう覚えちゃったよ」
分かっているなら、やめてほしい。結月が再度謝り頭を下げると、また上を向かされる。そして赤い顔を近づけてきた。アルコールのにおいがしていることから、彼が酔っているのが分かる。
「俺、十日ほどここに泊まる予定なんだ。そんなに長く泊まるんだから、少しくらい特別扱いしてよ。マニュアルどおりの対応なんて心がないと思わないかい?」
猫撫で声を出す水本を気持ち悪いとは思ったが、言うわけにはいかないので、結月は少し困ったような笑みで、できないことを伝えた。が、おそらく酔っている水本には納得してもらえないだろうから、早々にインカムで助けを呼ぶことに決めた。
(篠原さんも一人で何とかしようとせずに頼りなさいって言ってたし、いいよね)
結月がインカムでほかのスタッフに連絡を取ろうとした途端、水本に手を掴まれて止められる。
「そんなに嫌そうにしなくていいじゃないか。傷つくなぁ」
「大変申し訳ございません」
(うう、失敗した……)
こんなとき先輩たちならうまく躱せるのだろうが、結月にはまだそのスキルがない。酔って過ぎた行動をとる客をどう宥めて納得させたらいいか分からないのだ。
「水本様、このようなことは困ります」
「困ります、だって。可愛い~。俺、君のこと気に入っちゃった」
(は? 馬鹿にしてんの?)
結月の抵抗を嗤う水本に、心の中で舌打ちをする。解放してくれる気はないようだ。
それにしても、この人は何を考えているのだろうか。酔っているからって館内でこのような愚かや行為に及ぶなど、ありえない。
「日向さん!」