儚く散った初恋は十二年の時を経て芽吹く 〜犬猿の仲だった御曹司と再会したら溺愛されました〜

夢見が悪い

「……」

 結月は静かに目を開けると、ぎゅっと手を握り込んだ。
 まるで金縛りにあったあとみたいに、身体が重い。それに冬に囚われているみたいに、手足の先が冷え切っていた。世間では桜が咲く時期だというのに。

「ああ……」
(またあの夢を見たんだ……)

 父の仕事の都合で十歳のときに外国に引っ越すことになって、長らく日本を離れていた。でも、日本でやりたいことがあったのと、この街で祖母がカフェを営んでいることもあり、結月は就職を機に幼少期を過ごしたこの街に戻ってくることを決めた。

(ここ数年は見なくなっていたのに……どうしてかしら)

 この場所に帰ってきたからだろうか。
 嫌な思い出があるここに戻ってこようと思えたのは、高齢の祖母が心配だったというのが大きいけれど、この地を離れて十二年が経っているので、すべてが過去の出来事だと考えたからだ。それなのに、ここに帰ってきてからというもの、昔の夢ばかり見る。

 結月は大きな溜息をつき、ベッドから起き上がり枕元にあるスマートフォンを手に取った。まだ朝の四時半だ。

(またか)

 最近いつもこの時間に目が覚めてしまうので、もう癖になっているのかもしれない。 
 結月は、過去を思い出してそっと目を閉じた。

 碓氷拓真は――結月にとって太陽みたいな人だった。
 祖父同士が仲がいいこともあって、生まれたときから側にいた彼は、結月より三つ年上で、優しくて頼れる兄のような存在だった。
 いつも後ろをついて回っていたのをよく覚えている。けれど、その関係は……ある日あっけなく壊れた。

「嘘つき」

 結月の口からポツリと嘆きがこぼれ落ちる。それは、しんとした室内に虚しく消えていった。
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