儚く散った初恋は十二年の時を経て芽吹く 〜犬猿の仲だった御曹司と再会したら溺愛されました〜

苦い思い出

(長い間離れていたのに、あそこは全然変わっていないわね……)

 二度寝する気分ではなかったので、結月は散歩をすることにした。
 駅前まで歩くと、拓真の実家が経営する碓氷文具の本社ビルが見えてきて、複雑な心境になる。相変わらず大きく聳えていて少し悔しい。

 拓真には笑顔にしてもらった回数も多いけれど、泣かされた回数も多い。

『結月、泣くな。何があっても俺だけはお前の味方だから。どんなことがあっても俺が守ってやる』

 そう誓ったくせに、拓真はその約束を破ったのだ。

(あれはいつだったかしら……そうだわ、私が九歳のときの夏祭り……)

 その翌日から、優しかった幼なじみが急に冷たくなったように思う。
 結月は記憶を辿りながら――近所の神社で行われた夏祭りを思い出した。

 さほど大きな神社ではないので、参加しているのは地域の人たちだけなのだが、普段あまり交流できない他校の子たちと遊べることもあり、結月はその日がすごく好きだった。

 そう。あれは十三年前の夏祭り――拓真が小五で結月が小三のことだ。

「拓真くん、よそ見をしていたら損だよ。ほら見て、めちゃくちゃ綺麗!!」

 結月は目を輝かせて拓真の手を掴み、花火が上がっている空を指差した。

「すごいね。キラキラして、まるで夜空にお花が咲いているみたい」
「結月のほうが輝いてるよ」
「えっ!?」

 こちらを見てくれず、そっぽを向いたままそう言った拓真に、結月はとても驚いた。次第に頬が熱を持ち、鼓動が速くなっていく。
 それと同時に、複数の笑い声が聞こえてくる。振り返ると、拓真の同級生たちがクスクス笑っていた。

 その後、彼らにたくさん揶揄われて恥ずかしかったが、それ以外は何事もなく終わったはずだった。でも拓真はなぜか次の日から、急に結月を突き放すようになった……。

 仲直りがしたくて拓真に会いにいくたび、『子どもはあっちにいけ』とか『うざい』と言われて、突き飛ばされたり、髪を引っ張られたりした。それなのに、結月が逃げると追いかけてくるのだ。

 当時の自分は、何か失敗をして拓真に嫌われたのだと思っていた。どうしてうまくやれなかったのだろうと、後悔ばかりをして泣いていた。失敗しない人間になりたかった。
 だけど今になって思うのは、結月に非はなく、悪いのは拓真だということ。

 たとえ気に入らないことがあったとしても、対話の機会を持たずに結月を拒絶し傷つけ続けたのは彼だ。

(どっちが子どもなのよ……)
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