儚く散った初恋は十二年の時を経て芽吹く 〜犬猿の仲だった御曹司と再会したら溺愛されました〜
 突然、廊下に響いた声に結月が声のほうに顔を向けると、拓真が立っていた。

(え、どうして? どうして、ここにいるの?)

 結月が状況を飲み込めないでいると、水本が軽く舌打ちして手を離した。

「邪魔が入っちゃったなら仕方ないか。気が向いたら部屋に遊びに来てね、日向ちゃん」

 大事になることは水本も望んでいないのだろう。
 拓真の姿を目に留めて、水本はそそくさと去っていった。

「大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとう……。でも何でここに?」

 普段は拓真と会っても何とも思わないのに、今はとても安心する。こんなときに彼が来てくれて、本当に嬉しかった。

「母がこのホテルのエグゼクティブスイートに泊まってるんです。呼び出されたから来ただけで……断じて結月の働いている姿が見たいとかそんな不純な理由じゃないですよ。そりゃ偶然会えたら嬉しいなとは思いましたけど」

 しどろもどろになって弁解する拓真に、結月はプハッと噴き出した。

 結月は危ないところにタイミングよく来てくれるなんてまるでヒーローだと思ったのに、ストーカーではないと言い訳する拓真との考えの差がかけ離れ過ぎて、おかしかった。

「笑わないでください」
「ごめんなさい。馬鹿な言い訳すぎて面白くて。それより、私もおばさまにご挨拶したいわ。いいかしら?」
「俺は構いませんが……逆に結月はいいんですか?」
「ええ、一度くらいお会いしたいと思っていたから……ぜひ、お願いしたいわ」

 結月はインカムで支配人に水本の件を報告し、エグゼクティブスイートのお客様に挨拶に行くことの許可を求めた。
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