儚く散った初恋は十二年の時を経て芽吹く 〜犬猿の仲だった御曹司と再会したら溺愛されました〜

拓真の母

「あなたが、結月ちゃんね。話は拓真やお義父(とう)様から聞いているわ」
「はい。拓真さんには祖母共々いつもお世話になって、本当にありがとうございます。とても助かっています」

 拓真とともにエグゼクティブスイートに入ると、拓真の母・文子(ふみこ)がいた。挨拶をし、深々と頭を下げる。

 白いドロップショルダーのパフスリーブシャツに黒のIラインスカートを合わせ、真珠のネックレスをしている綺麗なマダムだった。忙しい人なので一度も会ったことがなかったが、拓真によく似ている。

「変な客に絡まれたそうだけど、大丈夫だった?」
「はい、拓真さんに助けていただいたので」

 彼女は突然挨拶に現れた結月を邪険にすることなく、とても心配してくれた。

(優しい人そうでよかったわ)

 仕事ばかりで子どもに無関心、けれどしっかりと口は出すと聞いていたので、とても厳しい人を想像していたが、そうではないようで結月はホッと安堵の息をついた。

「未来の妻を助けるのは当然のことだものね」

(ん?)

 聞き捨てならない言葉が聞こえて、結月は下げている頭を上げた。眉根を寄せて拓真を見ると、彼がそっと視線を外す。

「会長が勝手に言っているだけだから気にしないでください」
「あら、お義父様が決めたことは絶対よ。それに、結月ちゃんのおじいさまも乗り気だと聞いたわ。ご存命のときに孫を結婚させようと約束したそうよ」

 すかさずそう言った文子に、結月は目を剥いた。

(拓真くんのおじいさんって、確か……)

 何せ会ったのは子どものときなのであまり覚えていないが、拓真には厳しいが、結月にはとても優しかったのを覚えている。
 確かに結月が幼い頃、祖父たちはそんな話で盛り上がっていた。が、まさか碓氷家が本気にしていると思わなかった。

 どうやら文子がこのホテルに宿泊した理由は、結月を見にきたかららしい。結月はそれを聞いて、軽く眩暈を覚えた。

 なんと言うべきか分からず、結月は引き攣った笑みを浮かべた。すると、文子が結月の手を握る。
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