儚く散った初恋は十二年の時を経て芽吹く 〜犬猿の仲だった御曹司と再会したら溺愛されました〜

複雑な心

「はぁっ、やめよう。最近本当にうじうじして、嫌だわ。私らしくない」

 結月は独り言ちて、踵を返した。

 でもどこかで、文句を言ってやりたい気持ちはある。結月が感じたつらさを知らずに、彼がのうのうと生きているのはムカつくから。だが、彼と会う機会はないだろう。
 それに子どものときしか知らないので、街中ですれ違っても互いに気づかない可能性のほうが高い。

 そう自分に言い聞かせると、少し残念な気持ちになってくる。結月は気分を変えるために、思い出の地を見てまわることにした。

 自分がいない間に、この街は大きく変化した。横浜市内であり都心へのアクセスは悪くないが、どちらかといえば地味な街という記憶だったのに、すでに当時の面影はない。

 東口にショッピングモールが出来たのを皮切りに、高層マンションやオフィスビルが増え街の雰囲気は一変したようだ。
 だけど、その中で変わらないのは西口だ。そこは以前も今も碓氷文具が堂々と本社ビルを構えている。

(拓真くんはお父さんの会社に就職したのかな……)

 それともまったく違う道を選んだのだろうか。

 もう嫌いなのに、ここに帰ってきてから……彼のことばかり考えている。仲良しだった頃にあった淡い恋心が、色々な感情を運んでくるのだろうか。

 初恋というものは、散々な結果に終わったとしても、簡単には消えてくれないらしい。

「……」

 拓真は結月がいなくなってどう思ったのだろうか。後悔したのか、それとも清々したのか。

(私は安心したけど……もう二度とあのときには戻れないと思うと、寂しくもあったわ)

 できれば仲良しだった昔に戻りたい。
 心の奥底でそう願っても、現実はうまくいかないことだらけだ。
 たとえ大人になった今、再会できたとしても、歩み寄ることは難しいだろう。悲しみや怒り、意地。色々なものが邪魔をするから。

 複雑な胸中のまま駅から十分ほど歩くと、四年生まで通った私立小学校の校舎が見えてくる。
 春休み中なので校舎内はしんと静まり返っているが、当時を思い出させてとても眩しく感じた。

(こっち側はあまり変わってないな……)

 学校の前には小さな公園があって公園裏には神社がある。近所の子どもたちは学校帰りにそこで遊ぶのだ。でも早朝だからなのか、誰もいなかった。

「懐かしいな……。そういえば、あの神社でまだ夏祭りをやっているのかしら」

 結月は懐かしくなって、公園の裏手にまわり、神社の階段をのぼった。
< 5 / 34 >

この作品をシェア

pagetop