儚く散った初恋は十二年の時を経て芽吹く 〜犬猿の仲だった御曹司と再会したら溺愛されました〜
「俺、結月のことが大好きだったんです。でも友人に揶揄われて……あのときの俺は結月への恋心を認めることがどうしても照れくさくて、俺を慕ってくれる君を突き放した。ひどいことばかりして、すみません。お願いです。どうか償わせてくれませんか? 結月に謝罪をさせてください」
「いえ、もう昔のことなので……」

 なんとか拓真の手を振り払い、階段を降りようとするが、彼はまた結月の腕を掴んだ。不快げに眉根を寄せると、彼が慌てて手を離す。

「あ、すみません。俺……い、今、碓氷文具で専務を務めているんです。二十四歳になったし、もう以前の悪ガキじゃないから安心して」
「あ、そう」

 興味なさげに相槌を打つと、拓真が結月の顔を覗き込んできた。その表情は、なんだか寂しそうだ。

「ここには、透子(とうこ)さんに会いに帰ってきたんですよね? そういえば少し前に、結月が帰ってくるって透子さんがすごく喜んでいました。透子さん、一人で頑張ってお店してるから、俺心配で……実は今でも顔を出しているんです」
「……」
「こっちには、いつまでいるんですか? 結月のいる間、透子さんのお店に行ってもいいかな? あ、できれば……」
「これからは……祖母の家に住むので、祖母はもう一人じゃありません。あなたが心配する必要はないわ」

 かつては互いの祖父母は、結月や拓真にとって身近な存在だった。結月も、拓真の祖父母から実の孫のように可愛がってもらったことがある。でもそれは昔の話だ。

 今でも変わらず祖母を親しげに名前で呼ぶ拓真に、結月は苛立ちを隠せなかった。でも、そんな結月の態度を拓真は気にしていないのか、彼の表情がパァッと輝く。

「戻ってきてくれたんですね」
「貴方のためじゃないから喜ばないで」

 相変わらず不躾な人だ。
 表面上は敬語で話していても、距離感は昔のままだ。まるで友人のように接してくる彼に、結月は怪訝な表情を隠さなかった。

「すみません。やっぱりまだ怒っていますよね? どうしたら許してくれますか? 俺、結月を傷つけたことを謝りたいし、償いたいんです。もし良かったら連絡先を教えてもらえませんか? ……以前みたいに会いたい」
「……」

 結月は拓真を睨みつけると返事をせずに、一気に階段を駆け降りた。

(私のこと好きだった? 何それ。ふざけんじゃないわよ)

 あれが好きな人にとる態度なのか。
 許されたくて適当なことを言っている拓真に、結月は無性に腹が立った。

 封じ込めていた記憶の蓋が開く。
 風化していたはずの彼にされた嫌なできごとが、昨日のことのように鮮やかに蘇り、結月は胸を締めつける苦しさを打ち消すように夢中で走った。

 どうやら自分で考えていた以上に、彼とのできごとが心に残っているらしい。今さらながらに気がついた。

 でも結月も、もう二十二歳。以前より強くなったはずだ。前みたいに泣くような子どもではない。だから、きっと大丈夫。

 自宅に着くころには、太陽の光が燦然と照っていた。突き刺さるくらい眩しく感じるのは、拓真と再会したせいだろうか。
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