儚く散った初恋は十二年の時を経て芽吹く 〜犬猿の仲だった御曹司と再会したら溺愛されました〜

おばあちゃん

「あらあら、そんなことがあったのね」
「ちょっと笑い事じゃないってば。本当にびっくりしたんだから……」

 神社から帰ってくるなり、祖母に愚痴ると彼女がクスクスと笑う。

 結月は朝食をテーブルに並べながら、朗らかに笑っている祖母をじろりと睨んだ。化粧っけはないものの、おしゃれな花柄の服を着ていつも笑顔の祖母のまわりはどんなときでも明るく見える。

「あらまあ、怖い顔」
「なんでそんなふうに呑気に笑えるのよ。孫がいじめられっ子と再会しちゃったんだよ。おばあちゃんは心配じゃないの?」
「そうねぇ。昔も今も拓真くんはとてもいい子だから、特に心配はしていないわ。ボタンのかけ違いのようなものよ。向き合えば、すぐ分かり合えるわ」
「無理よ……」

 拓真の肩をもつ祖母に、結月は唇を尖らせた。すると、彼女が私の手を握り、皺を深くして微笑んだ。

「拓真くんね。結月たちがいないとき、お店にちょくちょく顔を見せに来てくれて、色々と気遣ってくれたのよ。今もたくさん手伝ってもらってるから、私は仲直りしてくれると嬉しいわ」
「……おばあちゃんのお店って、そんなに長く開けてなかったよね? あいつも仕事してるのに、手伝いに来れるものなの?」

 祖母が営業するカフェは朝食とランチがメインだ。週末は十五時のお茶の時間まで開けているようだけど、それでもせいぜい夕方まで。碓氷文具の専務である拓真が手伝えるとは思えない。

(そういえば、あいつもそんなこと言っていたわね。仕事を抜け出してきているのかしら)

「お店を閉めたあとも、やることはいっぱいあるのよ。この年齢だと重いものとか持てないし、それに昔から利用していた仕入れ先が閉店しちゃって困っているときに、色々と相談にも乗ってくれたのよ。拓真くんのおかげで、今もお店を続けられていると言っても過言じゃないわ。結月からするとわだかまりがあるかもしれないけれど、おばあちゃんにとっては恩人よ」

 拓真は、この機会にコストの見直しもしてくれ、良い業者を紹介してくれたらしい。

「……」

 それは確かに助かる。お礼を言うべきかもしれない。だけど素直にありがとうとは言えそうにない。

 祖母は……ずっとこの街で、祖父のカフェを守っている。祖父が亡くなった現在も。

 今までは心配でも、遠いところにいたからなかなか気遣ってあげられなかった。それが罪悪感としてあるだけに、拓真が手伝ってくれたと聞いて、心が少し動く。でもすぐにかぶりを振った。

「許せとは言わないけど、少しだけ歩み寄ってあげたらどう? 人はね、身体が成長するように心も成長するの。いつまでも小学生のままじゃないわ。あなたも拓真くんもね」

(だからチャンスをあげろって?)

 口の中に苦いものが広がって、お茶をひとくち飲んだ。
 炒り米の香ばしさと玄米茶特有のさっぱりとした味わいが口内に広がる。湯呑みからほわんと上がる湯気を見ていると、毛羽だっていた心が少しだけ落ち着いた。
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