僕らのノイズ ※最後の願いは、よく考えたうえで送信してください。
一枚目を読み上げようと、マイクに顔を近づける。
「皆さん、本日はお越しくださり、ありがとうございます。元、芝原学院高校合唱部の部員だった、佐々木夕夏です。合唱に詳しい方は、もしかしたら、私や朋美、何名かの他の部員の顔だけはご存じかもしれません。数年越しにまた、こうして、形は違っても、皆さんの前に立って歌うことができたこと、心の底から感謝申し上げます。」
中学時代に出場した全国大会は、テレビを介して生中継が行われた。
この会場ではないけれど、それでも、規模はほぼ同じようなものだから、どこか、重ねてしまう部分がある。
「私は、去年の今ごろに事故に遭い、その後いろいろあって、合唱部をやめました」
いじめ、退部を迫られてやむをえず、やめたこと。
今思えば、少し救われるように、逃げた部分もあったように思う。
観客席がざわつく。
私はざわめきに構わず、話を続ける。
「高校三年になってから、ずっと、空っぽな毎日を過ごしていました。大好きだったものをすべて、手放したから。あのころは " 奪われた " とばかり思い込んでいたけれど、今は、それは違うかもしれないなと思い始めました。」
そこまで読み上げて顔を上げると、いないはずなのに、タツさんがどこかに座っていて、聞いてくれているような、見守ってくれているような温かさが、胸いっぱいにじわりと広がっていく感覚になる。
「長くなるかもしれませんが、聞いていただけると幸いです。
私事にはなりますが……。
奪われたと思うことで、私は、他の誰でもない " 自分自身 " を必死に守り抜こうとしました。
自分を守るため。
そのために、私は昔から、親に、先生に、友達に、数えきれないくらい、たくさんの嘘をついて生きてきました。親や先生ならまだしも、大好きで大切で、かけがえのない存在のはずだった、幼馴染にまで。
その行為が、自分にさえも嘘をつき続けることが、間違っていることだと、気づけなかった。
あまりに、残酷なくらいに、幼かった。
けれど、だからといって、私がついた嘘の一つひとつが許されるとは、決して思ってはいません。
たくさん傷つけて、困らせて、迷惑をかけたというのは事実だから。
ただ、嘘をつくことでしか守れなくなっていた、脆くて弱くて、幼すぎた自分を、これからは、赦したい。
私が、私の罪を赦して、癒していくことでしか、赦すことはできないんだと思います。
そのために、これからは自分を偽ることなく、素直に生きていくと、決めました。
子どもでも、大人でもない、今はまだ十七歳の私ですが、明日、三月十五日。
十八歳になります。
大人にならざるをえなくなります。
法律で決められているから、成人年齢が引き下げられたから。
明日から、私は、どれだけ抵抗したって、大人になってしまう。
まだ、未熟な子どもの部分を多く残したまま、強制的に大人にされることが、とても怖いです。
けれど、そのことを理由に、今までの私がしてきたように、また嘘に嘘を塗り重ねていくことは、できることならしたくありません。
とはいえ、どうしてもつかなければいけない嘘も、世の中にはたくさん溢れてやまないことを、頭のどこかでわかってはいるつもりです。
だから、きっとまた、嘘をつく日が来てしまう。
けれど、せめて、誰のための、何の嘘かは考えて、それでも常に、自分に対して「その嘘は本当に必要か」を問い続けていかなければいけないと考えています。
それが、今の私にできる、精一杯の」
そこで、便せんに書き記した二文字を見つめた。
償い? ――違う。
償いなんて言葉じゃない。
私は便せんを一度折り畳み、両手で包み込む。