『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
佐知子さんは静かに頷いた。

「それが一番ですね」

それ以上。

遼河さんとのことも。

この先どうするつもりなのかも聞かなかった。

今はまだ。

そこまで問い詰める時ではないと分かってくれているのだろう。

「今日はもともとお休みでしたね」

「うん」

「でしたら、午前中に診ていただけるところを探しましょう」

「そうする」

「私もご一緒します」

「そこは一人で行く」

「綾乃お嬢様」

「大丈夫」

少しだけ笑った。

「まず、自分で聞きたいの。ちゃんと自分の耳で」

しばらく私を見ていた佐知子さんは。

やがて諦めたように息を吐いた。

「分かりました。ただし、終わったらご連絡ください」

「はい」

「すぐに」

「はいはい」

「返事だけは昔から立派なんですから」

「朝から一言多いよ」

ようやく。

いつもの朝らしい空気が戻った。



診療開始を待って電話をすると。

幸い、その日の午前中に診てもらえることになった。

受付を済ませ、待合室の椅子へ座る。

周りには、大きなお腹をした女性がいた。

隣に座る夫と笑いながら話している人もいれば。

小さな子どもの手を引いた母親もいる。

今までなら。

ただ目に入るだけだった景色。

でも今日は。

何もかもが少し違って見えた。

――私も、これから?

無意識に、お腹へ手を置く。

まだ見た目には何も変わらない。

それでも。

もしかしたら。

これから何度もここへ通って。

少しずつ身体が変わって。

いつか。

この子を抱く日が来るのかもしれない。

そこまで考えて。

急に怖くなった。

まだ何も確定していないのに。

こんなに期待してしまっていいのだろうか。

そんな不安まで込み上げてきた頃。

名前を呼ばれた。

診察室へ入り。

問診を受け。

検査をして。

診察台へ上がる。

医師がモニターを確認したあと、こちらへ顔を向けた。

「画面、見えますか?」

「……はい」

言われるまま、モニターを見る。

医師が画面の一角を指した。

「ここに赤ちゃんが見えますよ」

「……これが?」

思わず画面へ目を凝らした。

小さい。

本当に。

小さい。

まだ。

言われなければ、私にはどこがどうなっているのか分からないくらいだった。

「今、一生懸命、心臓を動かして元気に育っていますよ」

< 109 / 162 >

この作品をシェア

pagetop