『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
そのやり取りを見ながら。
改めて思った。
本当に。
父が帰ってきた。
*
リビングへ移り。
久しぶりに、ゆっくり話をした。
カリフォルニアで受けた治療のこと。
検査のこと。
体調の波。
聞けば聞くほど。
簡単な時間ではなかったのだと分かる。
それなのに父は。
相変わらず、大したことではないように話す。
「経過は順調だ」
「それだけ?」
「ああ」
「それだけじゃ分からないでしょう」
「今後は定期的に診てもらえばいいそうだ」
「だったら最初からそう言って」
「元気で戻ったんだから、それで十分だろう」
「そういう問題じゃないの」
「お前は昔から細かいな」
「誰の娘だと思ってるの」
父が、わずかに笑った。
その笑い方まで変わっていないことが。
何より嬉しかった。
しばらくして。
父が、ふと私の顔をじっと見た。
「綾乃」
「何?」
「お前こそ、顔色があまり良くないんじゃないか」
心臓が跳ねた。
「……そう?」
「ああ。少し痩せたか?」
一瞬。
佐知子さんと目が合う。
けれど。
佐知子さんは何も言わなかった。
「最近、ちょっと疲れてただけ」
「藤和君にこき使われてるのか?」
「違うって」
「本当か?」
「本当です」
父はまだ少し納得していない顔をしていたけれど。
それ以上は追及しなかった。
私は。
そっと息を吐く。
まだ。
父には言わない。
隠したいわけではない。
きっと。
喜んでくれる。
でも、その前に。
まず。
この子の父親である遼河さんへ。
私の口から伝えたかった。
*
しばらくして。
父がカップを置いた。
「カリフォルニアではな」
「うん?」
「治療だけしていたわけじゃない」
「……やっぱり」
思わず漏らすと。
父が眉を上げた。
「何がだ」
「大人しく治療だけしてるとは思ってなかった」
「私もです」
佐知子さんが間髪入れずに続ける。
「旦那様が大人しくしていられる方なら、こんなに心配しておりません」
「医者の言うことは聞いていた」
「一応、でしょう?」
志水さんまで、小さく咳払いした。
父が。
少しだけ居心地悪そうな顔をする。
思わず笑った。
父もやがて少し笑って。
それから。
静かに息を吐いた。
「時間だけは、嫌というほどあった」
その声が。
さっきまでとは少し違った。
私は何も言わず。
父を見る。
「身体が思うように動かない日もあった。治療がきつい日もあったし、夜になると妙に眠れない日もあった」
父がこんなふうに。
自分が弱っていた時のことを口にするのは珍しい。
「そうすると、嫌でも考える。何を見落としたのか。どこから間違えたのか。お前が少しずつ家から気持ちを離していった頃のことも、お前を国外へ出すしかなかった時のこともな」
父の視線が。
少し遠くなる。
「同じ家にいたのに。何で気づけなかったんだろうって。何度も考えた」
「お父様……」
「父親のくせにな」
「それは違うよ」
反射的に答えていた。
父が顔を上げる。
「お父様だけのせいじゃない」
言ってから。
少しだけ言葉を探した。
「私も……何も言えなかった」
何も言わなかった。
ではなく。
言えなかった。
あの頃の自分を思えば。
その方が近い。
「だからって、お父様が気づかなくてよかったとは思ってないよ」
父が黙って私を見る。
「今でも、もっと早く気づいてほしかったって思ってる。でも……全部をお父様一人のせいにしたいわけでもない」
失った時間は戻らない。
今さら。
誰が一番悪かったのかを決めたところで。
何も変わらない。
けれど。
これからは変えられる。
「だから、もう一人で全部背負わないで」
改めて思った。
本当に。
父が帰ってきた。
*
リビングへ移り。
久しぶりに、ゆっくり話をした。
カリフォルニアで受けた治療のこと。
検査のこと。
体調の波。
聞けば聞くほど。
簡単な時間ではなかったのだと分かる。
それなのに父は。
相変わらず、大したことではないように話す。
「経過は順調だ」
「それだけ?」
「ああ」
「それだけじゃ分からないでしょう」
「今後は定期的に診てもらえばいいそうだ」
「だったら最初からそう言って」
「元気で戻ったんだから、それで十分だろう」
「そういう問題じゃないの」
「お前は昔から細かいな」
「誰の娘だと思ってるの」
父が、わずかに笑った。
その笑い方まで変わっていないことが。
何より嬉しかった。
しばらくして。
父が、ふと私の顔をじっと見た。
「綾乃」
「何?」
「お前こそ、顔色があまり良くないんじゃないか」
心臓が跳ねた。
「……そう?」
「ああ。少し痩せたか?」
一瞬。
佐知子さんと目が合う。
けれど。
佐知子さんは何も言わなかった。
「最近、ちょっと疲れてただけ」
「藤和君にこき使われてるのか?」
「違うって」
「本当か?」
「本当です」
父はまだ少し納得していない顔をしていたけれど。
それ以上は追及しなかった。
私は。
そっと息を吐く。
まだ。
父には言わない。
隠したいわけではない。
きっと。
喜んでくれる。
でも、その前に。
まず。
この子の父親である遼河さんへ。
私の口から伝えたかった。
*
しばらくして。
父がカップを置いた。
「カリフォルニアではな」
「うん?」
「治療だけしていたわけじゃない」
「……やっぱり」
思わず漏らすと。
父が眉を上げた。
「何がだ」
「大人しく治療だけしてるとは思ってなかった」
「私もです」
佐知子さんが間髪入れずに続ける。
「旦那様が大人しくしていられる方なら、こんなに心配しておりません」
「医者の言うことは聞いていた」
「一応、でしょう?」
志水さんまで、小さく咳払いした。
父が。
少しだけ居心地悪そうな顔をする。
思わず笑った。
父もやがて少し笑って。
それから。
静かに息を吐いた。
「時間だけは、嫌というほどあった」
その声が。
さっきまでとは少し違った。
私は何も言わず。
父を見る。
「身体が思うように動かない日もあった。治療がきつい日もあったし、夜になると妙に眠れない日もあった」
父がこんなふうに。
自分が弱っていた時のことを口にするのは珍しい。
「そうすると、嫌でも考える。何を見落としたのか。どこから間違えたのか。お前が少しずつ家から気持ちを離していった頃のことも、お前を国外へ出すしかなかった時のこともな」
父の視線が。
少し遠くなる。
「同じ家にいたのに。何で気づけなかったんだろうって。何度も考えた」
「お父様……」
「父親のくせにな」
「それは違うよ」
反射的に答えていた。
父が顔を上げる。
「お父様だけのせいじゃない」
言ってから。
少しだけ言葉を探した。
「私も……何も言えなかった」
何も言わなかった。
ではなく。
言えなかった。
あの頃の自分を思えば。
その方が近い。
「だからって、お父様が気づかなくてよかったとは思ってないよ」
父が黙って私を見る。
「今でも、もっと早く気づいてほしかったって思ってる。でも……全部をお父様一人のせいにしたいわけでもない」
失った時間は戻らない。
今さら。
誰が一番悪かったのかを決めたところで。
何も変わらない。
けれど。
これからは変えられる。
「だから、もう一人で全部背負わないで」