『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
そのやり取りを見ながら。

改めて思った。

本当に。

父が帰ってきた。



リビングへ移り。

久しぶりに、ゆっくり話をした。

カリフォルニアで受けた治療のこと。

検査のこと。

体調の波。

聞けば聞くほど。

簡単な時間ではなかったのだと分かる。

それなのに父は。

相変わらず、大したことではないように話す。

「経過は順調だ」

「それだけ?」

「ああ」

「それだけじゃ分からないでしょう」

「今後は定期的に診てもらえばいいそうだ」

「だったら最初からそう言って」

「元気で戻ったんだから、それで十分だろう」

「そういう問題じゃないの」

「お前は昔から細かいな」

「誰の娘だと思ってるの」

父が、わずかに笑った。

その笑い方まで変わっていないことが。

何より嬉しかった。

しばらくして。

父が、ふと私の顔をじっと見た。

「綾乃」

「何?」

「お前こそ、顔色があまり良くないんじゃないか」

心臓が跳ねた。

「……そう?」

「ああ。少し痩せたか?」

一瞬。

佐知子さんと目が合う。

けれど。

佐知子さんは何も言わなかった。

「最近、ちょっと疲れてただけ」

「藤和君にこき使われてるのか?」

「違うって」

「本当か?」

「本当です」

父はまだ少し納得していない顔をしていたけれど。

それ以上は追及しなかった。

私は。

そっと息を吐く。

まだ。

父には言わない。

隠したいわけではない。

きっと。

喜んでくれる。

でも、その前に。

まず。

この子の父親である遼河さんへ。

私の口から伝えたかった。



しばらくして。

父がカップを置いた。

「カリフォルニアではな」

「うん?」

「治療だけしていたわけじゃない」

「……やっぱり」

思わず漏らすと。

父が眉を上げた。

「何がだ」

「大人しく治療だけしてるとは思ってなかった」

「私もです」

佐知子さんが間髪入れずに続ける。

「旦那様が大人しくしていられる方なら、こんなに心配しておりません」

「医者の言うことは聞いていた」

「一応、でしょう?」

志水さんまで、小さく咳払いした。

父が。

少しだけ居心地悪そうな顔をする。

思わず笑った。

父もやがて少し笑って。

それから。

静かに息を吐いた。

「時間だけは、嫌というほどあった」

その声が。

さっきまでとは少し違った。

私は何も言わず。

父を見る。

「身体が思うように動かない日もあった。治療がきつい日もあったし、夜になると妙に眠れない日もあった」

父がこんなふうに。

自分が弱っていた時のことを口にするのは珍しい。

「そうすると、嫌でも考える。何を見落としたのか。どこから間違えたのか。お前が少しずつ家から気持ちを離していった頃のことも、お前を国外へ出すしかなかった時のこともな」

父の視線が。

少し遠くなる。

「同じ家にいたのに。何で気づけなかったんだろうって。何度も考えた」

「お父様……」

「父親のくせにな」

「それは違うよ」

反射的に答えていた。

父が顔を上げる。

「お父様だけのせいじゃない」

言ってから。

少しだけ言葉を探した。

「私も……何も言えなかった」

何も言わなかった。

ではなく。

言えなかった。

あの頃の自分を思えば。

その方が近い。

「だからって、お父様が気づかなくてよかったとは思ってないよ」

父が黙って私を見る。

「今でも、もっと早く気づいてほしかったって思ってる。でも……全部をお父様一人のせいにしたいわけでもない」

失った時間は戻らない。

今さら。

誰が一番悪かったのかを決めたところで。

何も変わらない。

けれど。

これからは変えられる。

「だから、もう一人で全部背負わないで」

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