『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
背筋が。

ぞくりとした。

「私たちのことを?」

「私が話したんじゃない」

父は首を振った。

「あいつには、昔から才能があった」

少し間を置く。

「ハッキングのな」

「……慎ちゃんが?」

一瞬。

何を言われたのか分からなかった。

もちろん。

慎ちゃんが機械に強いことくらいは知っていた。

パソコンも何でも簡単に扱うし。

私が分からないことを聞けば。

呆れながら、すぐ直してくれる。

でも。

そんな程度の話ではなかったらしい。

「こちらが気づいた時には、もうかなり深いところまで辿り着いていた。本人は本人なりに、気になることを調べていたんだろう」

父の表情が険しくなる。

「その途中で、触れてはいけないものを見つけた」

「……慎ちゃんが、一人で?」

「ああ」

短い返事だった。

「だから隠した」

その一言に込められた意味は。

重かった。

「そのまま日本に置いておけば、慎二まで危険に晒される可能性があった」

胸の奥が。

冷たくなる。

「……慎ちゃんも?」

「ああ」

「そんな……」

私は。

自分だけが逃がされたのだと思っていた。

六年半ほど前。

あの時。

父は私だけを日本から遠ざけたのだと。

でも。

違った。

同じ頃。

慎ちゃんまで。

「慎二には、自分が何を見つけたのか。なぜ国外へ出なければならないのか。必要な範囲だけ話した。全部ではない」

父の声には。

はっきりとした信頼があった。

「だが、あいつは賢い。自分が置かれている状況は分かっていたよ」

「だから今まで、私にも居場所を言わなかったの?」

「ああ」

「どうして?」

「知ったら会いに行くだろう」

「行くよ。当たり前でしょう。弟だよ?」

「だからだ」

即答だった。

「お前が悪いんじゃない。知っている人間は少ない方がいい。特に、あの頃はな」

納得できない気持ちは残る。

でも。

慎ちゃんが何も知らず。

ただ一人で放り出されていたわけではない。

それが分かっただけでも。

少し救われた。

「じゃあ……今は?」

父を見つめる。

「今、慎ちゃんはどこにいるの?」

父が一度。

志水さんを見た。

それから。

私へ視線を戻す。

「お前が日本へ帰ったのは、一年半ほど前だろう」

「うん」

「その頃に、入れ替わるように慎二を真悠子のところへ移した」

「……お母さんのところ?」

驚いて。

声が大きくなった。

「慎ちゃん、今そこにいるの?」

「ああ」

「何で誰も教えてくれなかったの!」

思わず立ち上がりそうになる。

「私、何回も聞いたのに!」

「だから言えなかった」

「でも――」

「早紀子と蘭は、慎二が今も語学留学の延長で海外にいて、自由に暮らしていると思っている」

その言葉で。

動きが止まった。

「あの二人には、それ以上知られていない。慎二が何を知っているのかも。どこにいるのかもな」

父の声が低くなる。

「今は、それでいい」

「……」

「むしろ。そう思わせておく必要があった」

悔しい。

会いたかった。

この一年半。

日本へ戻ってからも何度も連絡を取っていたのに。

居場所を知ることさえできなかった。

でも。

慎ちゃん自身も。

黙っている意味を理解していたのだ。

そう思うと。

怒るに怒れなかった。

「……あの子、ずっと知ってたんだ」

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