『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
「ああ」
「私が何も知らないことも?」
「ああ」
「もう……」
両手で顔を覆いたくなった。
父が、わずかに笑う。
「怒るなら、全部終わってから本人に言え」
「絶対言う」
「そうしろ」
少しだけ。
空気が緩んだ。
けれど。
父はすぐに真顔へ戻った。
「それとな」
「何?」
「この件が片づいたら、慎二はトーマスに託すつもりだ」
「トーマスに?」
「ああ」
父は静かに頷いた。
「慎二の才能を潰すつもりはない。あれは、使い方さえ間違えなければ大きな武器になる。だが、一歩間違えば本人まで壊す」
その声に。
慎二への心配が滲んだ。
「だから、きちんと使い方を教えられる人間のところへ置く。あの子自身のためにな」
少し間を置いて。
父が私を見る。
「そして、お前には藤和君がいる」
「……何でそこで遼河さんが出てくるの」
「事実だろう」
「慎ちゃんの話と一緒にしないで」
「同じだ」
父は少しだけ笑った。
「私が全部抱える必要は、もうないってことだ」
その言葉に。
返事ができなかった。
六年半前。
父は私たちを守るため。
二人とも自分の手元から離した。
それから。
長い時間が経った。
今。
慎ちゃんには。
慎ちゃんの先を託せる人がいる。
そして。
私にも。
遼河さんがいる。
父もまた。
あの頃とは違う場所に立とうとしているのかもしれなかった。
「それに」
父が続けた。
「今回、最後まで繋がらなかった部分へ辿り着くきっかけの一つになったのは、慎二があの頃に掴んでいたものだ」
私は顔を上げた。
「慎ちゃんが?」
「ああ」
「何を見つけてたの?」
「それはまだ話さない」
「また?」
「まただ」
「お父様!」
父が少しだけ笑った。
けれど。
その目は笑っていなかった。
「ここから先は、こちらから動けるところまで揃えてから話すと決めていた」
その言葉を合図にしたように。
志水さんが傍らに置いていた鞄を開いた。
中から。
いくつものファイルと封筒が取り出される。
一冊。
また一冊。
テーブルの上へ並べられていく。
その数を見ただけで。
これは今日思いついた話ではないのだと分かった。
父がカリフォルニアで治療を受けている間も。
志水さんが日本で動き。
ジュリアンが必要な部分を支え。
遼河さんも関わっていた。
そして。
慎ちゃんまで。
六年半ほど前から。
「……私だけ、本当に何も知らなかったんだ」
思わず漏れた。
責めるつもりではなかった。
ただ。
少しだけ。
寂しかった。
父は。
そんな私の気持ちを誤魔化すことなく受け止めた。
「そうだな」
そして。
静かに続ける。
「でも、中途半端に知らせれば、お前はまた自分より誰かを先に守ろうとする」
何も言い返せなかった。
「だから。こちらから動くために必要なものが揃うまで話さない。そう決めた」
志水さんが。
一番上のファイルへ手を置いた。
「綾乃お嬢様」
いつもの。
落ち着いた声だった。
「ようやく、揃いました」
「私が何も知らないことも?」
「ああ」
「もう……」
両手で顔を覆いたくなった。
父が、わずかに笑う。
「怒るなら、全部終わってから本人に言え」
「絶対言う」
「そうしろ」
少しだけ。
空気が緩んだ。
けれど。
父はすぐに真顔へ戻った。
「それとな」
「何?」
「この件が片づいたら、慎二はトーマスに託すつもりだ」
「トーマスに?」
「ああ」
父は静かに頷いた。
「慎二の才能を潰すつもりはない。あれは、使い方さえ間違えなければ大きな武器になる。だが、一歩間違えば本人まで壊す」
その声に。
慎二への心配が滲んだ。
「だから、きちんと使い方を教えられる人間のところへ置く。あの子自身のためにな」
少し間を置いて。
父が私を見る。
「そして、お前には藤和君がいる」
「……何でそこで遼河さんが出てくるの」
「事実だろう」
「慎ちゃんの話と一緒にしないで」
「同じだ」
父は少しだけ笑った。
「私が全部抱える必要は、もうないってことだ」
その言葉に。
返事ができなかった。
六年半前。
父は私たちを守るため。
二人とも自分の手元から離した。
それから。
長い時間が経った。
今。
慎ちゃんには。
慎ちゃんの先を託せる人がいる。
そして。
私にも。
遼河さんがいる。
父もまた。
あの頃とは違う場所に立とうとしているのかもしれなかった。
「それに」
父が続けた。
「今回、最後まで繋がらなかった部分へ辿り着くきっかけの一つになったのは、慎二があの頃に掴んでいたものだ」
私は顔を上げた。
「慎ちゃんが?」
「ああ」
「何を見つけてたの?」
「それはまだ話さない」
「また?」
「まただ」
「お父様!」
父が少しだけ笑った。
けれど。
その目は笑っていなかった。
「ここから先は、こちらから動けるところまで揃えてから話すと決めていた」
その言葉を合図にしたように。
志水さんが傍らに置いていた鞄を開いた。
中から。
いくつものファイルと封筒が取り出される。
一冊。
また一冊。
テーブルの上へ並べられていく。
その数を見ただけで。
これは今日思いついた話ではないのだと分かった。
父がカリフォルニアで治療を受けている間も。
志水さんが日本で動き。
ジュリアンが必要な部分を支え。
遼河さんも関わっていた。
そして。
慎ちゃんまで。
六年半ほど前から。
「……私だけ、本当に何も知らなかったんだ」
思わず漏れた。
責めるつもりではなかった。
ただ。
少しだけ。
寂しかった。
父は。
そんな私の気持ちを誤魔化すことなく受け止めた。
「そうだな」
そして。
静かに続ける。
「でも、中途半端に知らせれば、お前はまた自分より誰かを先に守ろうとする」
何も言い返せなかった。
「だから。こちらから動くために必要なものが揃うまで話さない。そう決めた」
志水さんが。
一番上のファイルへ手を置いた。
「綾乃お嬢様」
いつもの。
落ち着いた声だった。
「ようやく、揃いました」