『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』


リビングへ戻ってソファへ腰を下ろした途端。

身体から一気に力が抜けた。

「……すごい一日」

本当に。

それしか出てこなかった。

朝。

佐知子さんに妊娠を見抜かれた。

病院へ行って。

小さな赤ちゃんを見た。

父が帰ってきた。

慎ちゃんのことまで聞いた。

そして。

長い間止まっていた過去が、とうとう動き始める。

同じ一日に。

こんなにいろいろなことが起きていいのだろうかと思うくらいだった。

バッグを引き寄せ。

エコー写真を取り出す。

さっきまで父や慎ちゃんのことでいっぱいだった頭の中が。

その小さな写真を見た瞬間。

別の温かさに包まれた。

「……これが、赤ちゃん」

先生に言われた言葉を。

もう一度口にする。

――これが赤ちゃん。可愛いでしょう。

「可愛い……のかな」

少し考えて。

自分で笑った。

「ううん。可愛い」

まだ会ったこともない。

声も聞いたことがない。

抱いたこともない。

それでも。

もう守りたいと思っている。

そして。

この子のことを、まだ知らない人がいる。

遼河さん。

写真を見つめていた目が。

スマートフォンへ移った。

どう伝えよう。

朝からずっと考えていた。

電話では嫌だ。

メッセージだけでも嫌だった。

この人がどんな顔をするのか。

ちゃんと目の前で見たい。

スマートフォンを手に取り。

短く打った。

『今日、少し会えますか』

送信。

すぐには既読にならなかった。

今日は私が休みなだけで。

遼河さんは仕事をしている。

会議中かもしれない。

移動中かもしれない。

CEOの予定が、私の都合で終わるわけではない。

そう思ってスマートフォンを置こうとした時。

画面が光った。

『今日は少し遅くなる』

続けて。

『予定が終わり次第、行く』

思わず息が漏れた。

「……やっぱり来るんだ」

『無理しなくても大丈夫です』

本当に。

無理をしてほしいわけではなかった。

むしろ。

少しだけ時間が欲しい気もした。

心の準備をする時間が。

でも。

返事はすぐに来た。

『無理じゃない』

「……そう言うと思った」

口元が勝手に緩んだ。

その画面を見たまま。

そっとお腹へ手を置く。

「パパ、来るって」

言ってから。

自分で固まった。

「……パパ」

もう一度。

小さく呟く。

遼河さんが。

この子のお父さん。

分かっていたことなのに。

言葉にした途端、急に実感が湧いた。

変な感じ。

でも。

嫌じゃない。

むしろ。

嬉しかった。

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