『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
今度は。

はっきり私を見て言った。

その瞬間。

ずっと胸の奥に残っていた小さな棘が。

少しだけほどけた。

「……うん」

「ありがとう」

「何が?」

「教えてくれて」

少しだけ笑う。

「言わないつもりじゃなかったよ」

「分かってる」

「でも……ちょっと怖かった」

遼河さんの眉が、わずかに寄る。

「何が」

すぐには答えられなかった。

でも。

遼河さんは急かさなかった。

そのことがありがたかった。

「……全部が、一気に変わりそうだったから」

「全部?」

「うん」

お腹の上に置かれた手を見る。

「この子がいるって言ったら、遼河さん絶対、すぐ先のことまで考えるでしょう?」

「当然だ」

即答だった。

「ほら」

「何が」

「そういうところ」

遼河さんは。

本気で何が悪いのか分からない顔をしている。

少し可笑しかった。

でも。

ここは笑って終わらせたくなかった。

「遼河さん」

「何だ」

「私、この子ができたことを理由に、何かを急いで決めたくないの」

表情が。

少しだけ真剣になる。

「もちろん、嬉しいよ。この子のことも。遼河さんが喜んでくれたことも」

ゆっくり。

一つずつ。

自分の中にあるものを言葉へする。

「でも、この子ができたから結婚するとか。責任を取るから一緒にいるとか。そういう形にはしたくない」

遼河さんが口を開きかけた。

その前に続ける。

「分かってるよ」

まっすぐ見る。

「遼河さんが、そんな気持ちだけで私といるんじゃないことは、もう分かってる」

昔から好きだったと。

何年も探していたと。

言ってくれた。

だから。

そこを疑っているわけじゃない。

「でも、私の中では……あの“責任を取る”って言葉が、まだ少しだけ残ってる」

遼河さんの目が。

わずかに揺れた。

「……そうか」

「うん」

「嫌だったか」

「嫌っていうより……怖かった」

「何が」

「また、自分で決める前に全部決まってしまいそうで」

口にした瞬間。

自分でも、やっと分かった気がした。

怖かったのは。

結婚ではない。

遼河さんとの未来でもない。

自分の意思が。

また置き去りになることだった。

昔も。

日本を離れた時も。

何度も。

自分の気持ちを最後に回してきた。

だから。

今度はちゃんと。

自分で選びたい。

「私ね」

少しだけ笑った。

「遼河さんと一緒にいたい」

遼河さんが。

黙って聞いている。

「この子も、二人で育てたい」

胸の奥が少し震えた。

それでも。

逃げずに言った。

「だからこそ……ちゃんと、自分で選びたいの」

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