『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
長い沈黙だった。

けれど。

嫌な沈黙ではなかった。

遼河さんは何かを考えるように。

お腹へ置いた手を見つめていた。

やがて。

静かに息を吐く。

「……悪かった」

「謝ってほしいわけじゃないよ」

「いや」

顔を上げる。

「俺が急ぎすぎた」

私は少しだけ目を細めた。

「長く待ったから?」

遼河さんの口元が、わずかに上がる。

「それもある」

「またそれ使う」

「事実だ」

「便利だね、それ」

「かなり」

二人で。

小さく笑った。

笑いが落ち着いたあと。

遼河さんが、もう一度お腹を見る。

「じゃあ」

「うん?」

「今日は何も決めない」

「うん」

「結婚の話もしない」

「今日はね」

「仕事の話も?」

「それは絶対しない」

「……分かった」

本当に。

不満そうだった。

その顔を見て。

また笑ってしまう。

「でも」

「何だ」

「今日は」

遼河さんの手の上へ。

自分の手を重ねた。

「一緒に喜んでほしい」

遼河さんが。

ゆっくり私を見る。

「それだけでいいのか」

「今日は、それがいい」

「分かった」

今度は。

迷わなかった。

遼河さんの腕が、そっと肩を抱く。

いつものように強く引き寄せるのではなく。

今は。

壊れ物を扱うように静かに。

私は、その胸へ身体を預けた。

耳を澄ませば。

遼河さんの心臓が、いつもより少し速く動いている。

ふと。

病院で見た、あの小さな動きを思い出した。

「ねえ」

「何だ」

「今日ね。赤ちゃんの心臓を見たでしょう?」

「ああ」

「今、遼河さんの心臓も結構速い」

「……うるさい」

思わず声を上げて笑った。

「緊張してる?」

「してない」

「嘘」

「うるさい」

こんな時まで。

素直じゃない。

でも。

それが遼河さんだった。

笑いながら目を閉じる。

少しして。

頭の上から、低い声が聞こえた。

「綾乃」

「何?」

「次は、絶対一緒に行く」

「病院?」

「ああ」

「仕事は?」

「どうにでもする」

「CEOがそれ言ったら駄目でしょう」

「どうにでもする」

二回言った。

また笑ってしまう。

「分かりました」

「エコーも見る」

「うん」

「心臓も」

「うん」

「俺も見る」

その言い方が。

何だか子どもみたいだった。

「分かったって」

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