『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
笑いながら。

遼河さんの胸へ、もう少しだけ頬を寄せる。

昨日まで。

この命を知っているのは私一人だった。

今日は。

二人で知っている。

それだけで。

世界の形が少し変わったような気がした。

ただ。

穏やかな時間の片隅には。

今日、父が残していった言葉が。

まだ消えずに残っていた。

――退治の時間だ。

父の前に並べられていた、いくつものファイル。

早紀子と蘭だけではないと告げた声。

そして。

六年半もの間。

ただ留学しているのだと思っていた慎ちゃんが。

私の知らない場所で、この件の一端に触れていたという事実。

慎ちゃんは。

何を見つけたのだろう。

なぜ。

まだ幼かったあの子が。

国外へ隠されなければならないほどのものに、辿り着いてしまったのだろう。

聞きたいことは。

いくらでもあった。

でも。

父は最後まで話さなかった。

――ようやく、揃った。

そう言っただけだった。

こちらから動くために必要なものが。

全部。

今なら。

少しだけ分かる。

父が黙っていたのは。

私を何も知らないままにしておきたかったからではない。

きっと。

一度その扉を開けば。

もう二度と。

知らなかった頃には戻れないからだ。

私は無意識に。

お腹へ重ねた手に、少しだけ力を込めた。

その上から。

遼河さんの手が、静かに重なる。

「どうした?」

「……ううん」

顔を上げる。

「何でもない」

今夜は。

まだ。

この温かさの中にいたかった。

明日になれば。

きっとまた。

何かが動き始める。

父が帰ったことも。

慎ちゃんが隠されていた理由も。

早紀子と蘭の、その先にあるものも。

長い時間。

見えない場所で絡み合っていたすべてが。

ようやく。

一つの場所へ向かい始めている。

それでも今は。

誰かと戦うことも。

未来を急いで決めることも。

しなくていい。

この人がいて。

私がいて。

そして。

まだ誰の目にも見えないほど小さな命が。

確かに、ここにいる。

遼河さんの胸へ、もう一度そっと身体を預ける。

その腕の中は。

この先に嵐が待っていることなど忘れてしまいそうなほど。

穏やかで。

温かかった。

そして私は。

この人と。

この小さな命と。

その先にある未来を。

今度こそ。

誰かに決められるのではなく。

自分の意思で。

一緒に選んでいきたいと思った。
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