『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
空気が変わった。

直政の顔が凍りつく。

早紀子は。

まるで息の仕方を忘れたように固まっていた。

「充……?」

その声だけで分かった。

知っている。

早紀子はこの人を知っている。

充さんは早紀子を見た。

「久しぶりですね」

「どうして……」

「どうして生きてるのか、ですか?」

早紀子の顔が歪む。

「違……」

「それとも、どうしてここにいるのか?」

誰も動けなかった。

充さんは鞄から厚い封筒を取り出し、机へ置いた。

「俺が黒幕です」

慎二が眉を上げる。

真崎も黙って彼を見る。

直政が険しい顔になる。

けれど、充さんは続けた。

「勘違いしないでください。あなたたちと一緒に犯罪をやっていた、という意味じゃない」

私たちへ向き直る。

「六年半前から、彼らに資料を送っていたのは俺です」

慎二の口が開いた。

「……あんたかよ」

「はい」

「俺ら何回徹夜したと思ってんの?」

「随分、いい師弟ですね」

「違います」

慎二が即答した。

「そこ即答するところか?」

真崎が横から突っ込む。

充さんが初めて少し笑った。

その笑顔は。

どこか蘭に似ていた。

そう思った瞬間。

胸の奥がざわつく。

「俺の目的は一つです」

充さんの表情が戻った。

「全部を終わらせることです」

そして、封筒から古い書類を取り出した。

「これは出生届の控え」

紙が二枚。

「同じ内容のものを、別の場所で保管していました」

直政が立ち上がる。

「充!」

「座ってろよ、親父」

その一言で。

私は息を呑んだ。

蘭も。

慎二も。

父も。

誰も言葉を発さない。

「三十七年前」

充さんは静かに続けた。

「河崎直政と、当時十九歳だった武村早紀子との間に、子どもが生まれた」

早紀子が首を振る。

「やめて……」

「その子が俺です」

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